プロケルと水鏡
プロケルは問われた事だけを回答する方向でいくようだ。つまり、全ての情報を引き出せるかどうかはアンドレアルフスにかかっている。
質問の回数に制限をしていないだけ良心的だと言えるが、始めから知っている情報全てを渡す気がないかのように言うのが彼らしくもあり、彼なりの配慮である。
おそらく、天使プロケルとして行動している時に手に入れた情報も含まれているはずだ。悪魔プロケルの時に知った情報を天界に持ち込んだりしない。
それと同じく天使プロケルの時に知った情報は、魔界で簡単に知らせる事ができないのだろう。
だからといって、親友の力になりたいとプロケルが思うのはあり得ない話ではない。現に、アンドロマリウスとアンドレアルフスの不在時の穴を、可能な限り埋めているのは彼である。
天使の核を持つだけあって、優しい奴だ。
核を持つが故に、名持ちである我々には責任が発生する。その責任を全うするべくプロケルは回りくどい事を言っているのだ。
――というのは、全てアンドレアルフスの想像である。過去に二つの核を所有し、二つの名持ちとして生きていた時間のあるアンドレアルフスだからこそ、この提案が単なるプロケルの好奇心を満たす為の行為だけだとは考えられなかったのだ。
「まず、ざっくりといかせてもらおう。
シェリルの周囲に起こり始めるというが、具体的にはどういう事だ」
「周囲といっても、気が付きにくい程度に距離のある場所で、普通では起こらないことが起きる。
既に兆候は出ているよ。調べればすぐに分かるはずだけれど」
「もう少し具体的に」
具体的に聞いたにも関わらず、曖昧に応えるプロケルにアンドレアルフスがもう一度強く言った。プロケルの方は、答えたくなさそうにそっぽを向く。
「プロケル」
名を呼ばれ、仕方がないといった様子で息を吐き、少しだけ例を出した。このようにして情報を渡していくのが、彼なりの優しさなのだ。
「前みたいにあり得ない魔族が現れたり……とか、ね」
ディサレシアの事だろう。アンドレアルフスは自分の仕事が一段落したらディサレシアに会いに行く事を決める。
どこにいるかは知らないが、調べれば見つけられるだろう。見つけられなくとも、向こうにはアンドロマリウスがいる。
彼に伝えれば、確実に見つけられるのだ。ディサレシアを探して情報を得る事に関しては何も問題はない。
「複数種類なのか」
「前回君達は相手方を絶滅寸前まで追いやって扉を封じたのだから、それを見越して力を入れるだろうね」
確かに自分でもそうするな、とアンドレアルフスも心の中で同意した。
「ほら、前回の魔族は今こんな感じで元気にしているよ」
「あっ」
プロケルが水鏡を指さすと、ディサレシアの姿が映り込んだ。彼女は深い森の中で沐浴をしているように見える。その周囲では蜂が舞っていた。
日常生活を切り取ったかのような映像で、アンドレアルフスの緊張感が薄れる。だが、これで一つ分かった事がある。
「魔界じゃねぇな」
「そのようだね」
この場所はアンドレアルフスに見覚えがない。つまり、ディサレシアはシェリルやアンドロマリウスのいる世界か、はたまた別の世界かにいるという事だ。
口では言えない事は水鏡に映すわけか、とアンドレアルフスは合点がいった。
「んじゃ、他に怪しい魔族や他の奴らっているのか?」
「どうだろうね。
そうだな……ここら辺のは最近元々の世界にいないみたいだけれど」
水鏡には数種類の種族が順々に映し出された。魔界に住んでいる者もいれば、精霊界に住んでいる者もいる。その中に天界の者はいなかった。
獰猛な性格で有名な種や、穏やかな性格だが刺激するとひどく攻撃的になる種が多い。この全てが関わっているとは限らないが、アンドレアルフスは全てを頭の中に叩き込んだ。
2020.5.15 誤字修正