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贖う者  作者: 魚野れん
第十四章 因縁の血族
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ヨハンの優しさ

 アンドレアルフスが持つクロマをちらりと見たアンドロマリウスは、小さく頷いた。

 そしてアンドレアルフスを真っ直ぐに見つめる。射抜くような強い、だが敵意のない視線だった。


「頼む」

「俺の行動は、罪の完済だけじゃないからな。

 俺のお姫様の面倒は任せる。完成を楽しみにしとけよ?」


 アンドレアルフスはアンドロマリウスの肩を軽く叩き、溶けるように姿を消した。数日で戻ってくるとはアンドロマリウスは考えていなかった。

 アンドロマリウスはアンドレアルフスの魔界での行動を想像する。考える事は大体想像がつく。


 アンドロマリウスもそうたが、アンドレアルフスは地位のある悪魔である。魔界では仕事が溜まっている事だろう。アンドロマリウスにしか処理できないものがあるのと同じく、アンドレアルフスにしか処理できないものもある。


 召喚術士に囚われたと報告されているアンドロマリウスの仕事はある程度割り振られているだろうが、ただ放浪しているだけのアンドレアルフスの方はそうはいかない。

 だから、恐らくアンドレアルフスは今までも定期的に戻って仕事をしていたはずだ。


 それに幻影が気になる事を言っていた。束の間の日常、黄昏れゆく現実、小さな異変。この三つである。

 これらの言葉は不穏な響きを持っていた。アンドレアルフスが気が付かない訳がない。

 魔界で仕事をすると言っても、情報収集を兼ねて動くだろう。アンドロマリウスか魔界に還れない分、補うように動こうと考えるのは当然だった。


 アンドレアルフスのように自分も何か動きたいと思うアンドロマリウスであったが、制限されている現在、彼にできる事はシェリルを近くで見守る事しかなかった。




 歯痒い気持ちを押し込め、何事もないかのように振る舞うアンドロマリウスをよそに、目を覚ましたシェリルがしたのは商館を訪ねる事だった。

 アンドレアルフスの不在を知らされていたシェリルはヨハンを呼び出した。


「シェリル様、顔色がよろしくなりましたね。

 改めまして、おかえりなさい」

「……うん、ただいま」


 シェリルの返事を聞いたヨハンは彼女を優しく抱き締めた。シェリルも彼の背中に手を回す。

「突然ユリアとしての感覚が戻ってきた時は気が気じゃありませんでした」

 姿を貸す側には、強い喪失感を味合わせると言われている。


 下手をすれば自分を失い、何者でもない存在になってしまうという。

 一人の人間の存在を奪うにも等しいこの術は、一般的に言うならば禁術の類である。


 ユリアとヨハンは別個の存在として本人が認識している為、片方の存在を取り上げても平気だったのだ。

 いや、平気ではなかっただろうが、自分を保つ事が普通の人間よりも簡単だったという事である。それに、誰しも慣れは必要なものだ。


 ヨハンはユリアと別個の存在として周知させていた事もあり、非常事態にはシェリルがどちらかの代役を務める事もあった。つまり、予行演習は済んでいたのだった。


「心配かけてごめんね」

「あなたの無事な姿が見られただけで十分です」


 シェリルは少し体を離してヨハンの額の自らの額を合わせる。ヨハンの方がシェリルよりも体温が高い。じんわりと染み込むように額から温もりが移っていく。

 シェリルはほっとしたように、ほう、と息を吐くのだった。

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