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贖う者  作者: 魚野れん
第三章 悪魔とお茶会
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お茶会の理由

「ロネヴェが死んで百年くらい経ったあんたが、気になったからだ」

 清廉された美しい所作だった彼が、突然口調を崩した。だが、これくらい崩れている方が自然に感じられた。口調まであのままだったならば、完璧過ぎて流石のシェリルも対応に困ってしまっていただろう。


 もしかしたら、それを悟った悪魔なりの気遣いなのかもしれない。

「は……」

「あと、マリウスが元気にしているかも気になってね」

「――お知り合いでしたか」

 彼女は、ロネヴェを失ったシェリルとアンドロマリウスの様子が知りたいだけとは思えなかった。だが、理由はそれだけだと言われてしまえば否定する根拠もない。

 ただそうですかと頷くしかない。


「こう言えば納得してくれるか」

 彼はシェリルに向かって挑戦的な視線を向けた。そして勿体ぶるように、ゆっくりと口を開いた。


「俺は元々アンドレアルフスとアンドロマリウスの核を持つ名持ちだった。

 あれにアンドロマリウスの核を譲ってやったのは俺だ。

 そしてアンドロマリウスはロネヴェを育てた悪魔だ。

 だから、分かりやすく言えば――」



「アンドロマリウスは俺の子供で、ロネヴェは孫って感じだな」

 アンドレアルフスが美しい顔を歪ませて、にやりと笑った。


 シェリルは商館になるべく関わらないようにとロネヴェに言われる原因が、目の前にいる悪魔であるのが確実になった。

 どういう意味で関わるなと言っていたのかまでは分からない。少なくとも、彼が魅力的すぎるからだという訳ではないだろう。

 いずれにしろ彼が原因だという事を考えると、変な対応はできない。そう思った彼女が真っ先に口にしたのは、アンドロマリウスの事だった。


「アンドロマリウスを封印したのは私ではありません。

 理由は分かりませんが、自ら封印されています」

 彼女は魔界へ戻れないように、この世界へと結びつける為の呪いをかけただけだ。

 実際、アンドロマリウスはこの世界ならばどこでも一人で生きていける。彼女が封じたと言うには、拘束力に欠ける。

 今の状態はシェリルの望んでいた形に比較的近いが、経緯は全く異なるものだった。


「そんな事は分かっている」

 アンドレアルフスの知りたい事が何なのか、シェリルは考えを巡らせようとしたが止めた。

 情報が少なすぎるのだ。いつも悪魔と対応する時は情報が少ない。そもそもこの世界に存在しない種だ。情報が少ないのは、どうしようもない事だと諦めるしかなかった。


 気を紛らわせようと、カップに口付けた。アンドレアルフスは元々アンドロマリウスの核を持っていたという。それが事実なら、彼はほとんど嘘を吐かない。正義感が強いという性格を持っているからこそ、その核を所有する事が許されたはずだ。


 そこまで考えてから、一口飲んだ。

 彼はロネヴェからシェリルの好みを聞き出していたのだろう。シェリル好みの、爽やかに香るさっぱりとした紅茶だった。

「ロネヴェは俺の事を言わなかったようだな。

 俺は別に、ロネヴェをアンドロマリウスに殺させた事を憎く思っているわけじゃない。本当だ」


「……」


 シェリルは黙っていた。じっと目の前の悪魔を観察する。

 アンドレアルフスは足を組んで背もたれに身を預けた。だが、その姿に寸分の隙もない。ある意味シェリルの考える、悪魔らしい悪魔だ。

 この悪魔、見た目通りに完璧主義な所があるのかもしれない。その割にはシェリルを貶めようとする様子も見られなかった。それとも、油断させてから何かをするつもりなのか。

 それもまた、シェリルには読めなかった。


「俺は心配しているんだ。

 ……ロネヴェとの事じゃない。

 あんたとマリウスの事だ」


 彼の言葉に、シェリルは眉をひそめた。一方的な知人に心配される程の何かがシェリルにはあると言うのだろうか。彼女には心当たりなど無かった。

 シェリルの表情にアンドレアルフスが溜息を吐いた。

「説明してくれないと、私は全く分からないわ」

「そのようだな」

 シェリルは普通に接する事にしたようだ。アンドレアルフスがどんな思惑なのか分からないが、下手に警戒するだけ無駄なのを感じているのだろう。


 二人きりで、まじめな話がしたいだけなのかもしれない。シェリルがそう思うくらいには、アンドレアルフスを信用し始めていた。

 アンドレアルフスは、少し懐かしむように目を細めた。その瞬間。少しだけ表情が、彼の醸し出す雰囲気が、柔らかくなったのだ。ロネヴェは彼に愛されていた。シェリルはそれに気付かされたのだった。

「ロネヴェは、自分がアンドロマリウスに殺される事を初めから知っていて……

 あんたと恋人になったんだよ」

 それからの話は、シェリルにとって衝撃的な内容であった。

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