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贖う者  作者: 魚野れん
第十四章 因縁の血族
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幻影の忠告

 アンドレアルフスが取り出したクロマの中から出てきたのは、シェリルの術式でクスエルから奪い、手に入れた力を結晶化したものである。


 無色透明のようだが、表面は小さな傷があるのか少し曇って見える。それは二つあり、同じくらいの大きさであった。

「これはシェリルの為に使う分だ。

 俺んじゃねぇよ」

 自分のはこれだ、と言ってアンドレアルフスは舌を出した。その上に乗っているのは小さな欠片である。


「……それで、ここに戻る時率先して力を使ったのか」


 アンドロマリウスは合点がいったと言うように頷いた。シェリルが空間移動の扉を作ろうとした所、アンドレアルフスが代わりにやってのけたのである。

 シェリルの体力の消耗具合を慮った事とはアンドロマリウスも承知しているが、空間を繋ぐ事をしてのけた割にケロッとしている。


 以前、実行した時は往復で力を消耗し、魔界へと還らざるを得ない状態になっていただけに、不思議に思っていたのだ。


 アンドレアルフスは見せていた欠片をもう一度口の中に戻した。クロマに包まれた二つの欠片をいとおしそうに撫でる。

 その欠片に対してアンドロマリウスは何も言わなかった。


「お前は本物ん所に戻れよ。

 気が済んだだろ?」

「まあ、良いよ。そういう事にしておこう」


 アンドレアルフスは腕を組んで高圧的に言い放つ。

 プロケルの幻影が舞台を畳むと、人形達は慌ただしく去っていった。

 片付けを終えた彼はアンドロマリウスの方へと数歩近づき、指でその胸を突く。もちろん感覚はない。

 何をしたいのかと心の中で首を傾げるアンドロマリウスに、幻影は口を開いた。


「それにしてもマリウスまで、こんな事を言い出すとは思わなかったよ。

 シェリルに気を取られすぎじゃないかい?」


 琥珀色の瞳がすうっと細くなる。だが、その瞳に籠っているのは好奇心や愉快といった感情だ。

 忠告と取れば良いのか、からかわれていると取れば良いのか、微妙な所である。アンドロマリウスはやや面白くなさそうに下を向いた。

 漆黒の輝きを取り戻した彼の髪が頬にかかる。その髪を耳にかけながらぼそぼそと呟いた。


「五百年以上この世界だけ見続けていたからな。

 自分で言いたくはないが……腑抜けたのだろう」

「自覚があるならば結構」


 アンドロマリウスが正直に言えば、軽く頷き胸を突いていた指を戻し、プロケルの幻影はにっこりと笑う。

 耳元で纏めている前髪を弄ると、艶やかな銀糸が煌めいた。編み、纏めているのに自ら発光するかのような美しさである。

 透明感のあるそれは、シェリルの銀糸とはまた違った質感を持っていた。


「では、私は主人の所へ戻るとしよう。

 束の間の日常を楽しみ、黄昏ゆく現実をしっかりと見つめるように。

 小さな異変を見逃さなければ犠牲は最小で済むだろう」


 予言めいた言葉を残し、幻影は消えていった。残されたアンドロマリウスとアンドレアルフスは顔を見合わせる。

 しばらく無言でいた二人だが、とちらからともなく溜息を吐いた。


「……お疲れさん」

「ああ、お前もな」


 アンドレアルフスは眠るシェリルの頭をひと撫でし、小さく笑う。彼女は穏やかに、安定した呼吸で眠っている。

 この、愛しい召喚術士を守る為に己ができる事を思う。言葉にはしないが、アンドロマリウスも同じような事を考えているのだろう。


 先手を取ったつもりでも、後手後手に回ってしまっている現状を省みる必要がある。それには、アンドロマリウスとだけではなく、シェリルともしっかりと会話をしていかなければ。

 とはいえ、今すぐできる事は限られている。もちろんそれは欠片の加工であった。


「マリウス」

「何だ」


 シェリルに背を向け、もう一度アンドロマリウスと向かい合う。


「ちょっと魔界に還る。

 シェリルが使えるように加工したら、すぐ戻るよ」


 アンドレアルフスの言葉は、アンドロマリウスが予想していた通りだった。

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