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贖う者  作者: 魚野れん
第十四章 因縁の血族
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無意味な選択

「そのようにこの世界を作り上げた当人である主は、天使への救済措置を取らない。

 マリウスのような元々能力の高い天使なんか、堕天して悪魔の核を持っているにも関わらず、どの世界においても天界の力を使う事ができる」


 プロケルの幻影は指先で堕天使の頭を撫でる。

 撫でられた堕天使は、黒衣の天使の隣で再びまっさらな天使へと戻った。


「この点から、どうあがいても天の祝福はゼロにはならないという事が分かっている。

 それほどまでに天の力は強い。これが天使への救済措置であると言うならば別だけれどね」


 黒衣の天使と一度堕天してから純粋さを取り戻した天使は、観客であるアンドロマリウスとアンドレアルフスへそれぞれ深くお辞儀をしてからふわりと飛び去った。

 人形劇を見せられていた悪魔は改めて幻影へと視線を戻す。


 プロケルの幻影は、本物さながらの優雅さと氷のような冷たい笑みを浮かべていた。

「ここまで天使の事を並べて何が言いたいのかというと。

 悪魔二体(きみたち)がシェリルの指示で、揃って世界を破壊する程の大騒動を起こさない限り、主である神からシェリルが攻撃される事はあり得ないという事さ。

 例えば、シェリルの周りをうろつく悪魔を煙たく思う天使がちょっかいを出しても、それは世界調整だと主は考える」


 再びプロケルの幻影は人形劇を始めた。小さな天使と悪魔が現れ、光の玉を取り合っている。

 悪魔の後ろにはシェリルと思われる人間の姿がある。


「そしてその時に天使が敗れようとも主は気にしない。

 人間であるシェリルが一つ成長した証ととれるし、逆に悪魔が敗れるならば、人間であるシェリルが乗り越えるべき壁であり試練であるといえる」


 天使が倒れるふりをし、その後天使が起き上がると悪魔が倒れるふりをした。人間が相変わらずふわふわと浮かんでいる光を手に入れる。

 手に入れた光を人間が手放すと、天使と悪魔が起き上がった。


「しかしそのせいで大きな災害が起きようとするならば、悪魔ではなく天使を堕天させるだろうね」


 天使と悪魔は再び光の玉を取り合い始める。そして両者が引っ張り合い、光の玉が歪み始めた途端、天使の姿が消えた。残ったのは悪魔と人間である。

 人間はきょろきょろと辺りを見回して天使を探す様子を見せた。


「理由は簡単だ。

 世界の調和を乱す原因を作ったのが天使だからだ。主である神の愛なんて、天使には注がれる事は決してないのだから」


 そう言い放った幻影は、すこぶる悪そうな笑みを浮かべた。彼の両手は広げられ、大演説をした偉人のようである。

「ここまで言えば、分かるでしょう?

 君達二人がここにいようが、片方が隠れようが、この世界にしてみれば大した事でもないという事だよ。

 だから君達はこのままここでシェリルと自由な時間を楽しめば良い」


 いつの間にか、消えていた黒衣の天使が悪魔と手を繋いでいる。

 アンドロマリウスとアンドレアルフスは顔を見合わせた。


「面白く思わない連中が、また何かしでかすかもしれないけどいつものように跳ね返せば良い。

 二人とも、それだけの力があるのだからね」

「力があっても、俺はそんなに使うつもりはないぞ?」


 溜息と共にアンドレアルフスがぼやく。幻影は面白いものを見ているかのように笑っている。

「ふふ、そう言っておきながら、力が使えるようになる小道具を作っていたじゃないか」


 幻影はアンドレアルフスが隠すようにして持っていた結晶のありかを指さした。

「大切なお姫様を守るには、非力ではいられないと思い知ったんでしょう?

 自分の負担などどうでも良いと、空間に穴を開けた君は魔界で相当苦しんだじゃないか。

 だから今回はマリウスの力を借りて変化して最後までマリウスと一緒に守り抜いた」


 アンドレアルフスは不満げに眉を寄せたが、プロケルの幻影は話し続けた。

「君を召喚できる人間が居なくて残念だね。

 どう足掻いても、この世界で自分の力を最大限発揮する事は不可能だ。

 歯痒いのは分かるよ」

 つり目がちのその瞳が蔑むような視線を送る。


 アンドレアルフスは挑発に乗る訳ではない、ともう一度溜息を吐いた。そうして気が向かない事を示すように、ゆっくりとクロマを取り出した。

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