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贖う者  作者: 魚野れん
第十四章 因縁の血族
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クスエルの本心

 シェリルの思惑通りにクスエルの動きは止まった。そして術は完成し、発動した。

 クスエルは急に力を失ったかのように翼をなびかせながら落下する。砂埃を立ててどしゃりと落ちてきた彼は、悲しそうに目を見開いてシェリルを見つめていた。


 一方、シェリル達三人はそんなクスエルを気にしているどころではなかった。思いの外、術式の反動が強かったのである。

 悪魔との契約印が二つあるせいだろうか。それとも、天の属性を直接奪うせいだろうか。シェリルにクスエルの力が流れ込んできた瞬間から、とてつもない圧力が彼女を襲ったのだ。


 それに気が付いたアンドロマリウスは咄嗟にシェリルを抱きしめ、アンドレアルフスは彼女から離れた。

 アンドロマリウスは己の持つ天の力を利用してシェリルの苦しみを緩和させる為に。アンドレアルフスは純粋な悪魔という反発力がシェリルの枷とならぬ様に。


 三人にとって、誤算であった。

「くぅ……っ」

 シェリルはクスエルの力を吸い上げ、自らを力の変換器とさせて二人の悪魔へと流し込む。


 ある程度クスエルの力を吸い上げる速度を調整できるとはいえ、相手の回復量を考えるとあまり速度を緩めるのは得策ではない。

 シェリルは歯を食いしばり、体の中で荒れ狂う天の力が無の力へと変換されて悪魔へと循環していくのを耐えていた。


 アンドロマリウスがシェリルの頭を撫で翼を大きく広げている。時折羽ばたくように動くその翼には白い羽が混ざっていた。

 アンドレアルフスは手のひらをじっと見つめ、自分の中に力が貯まっていく様子を確認している。ぐっと拳を作っては開く。何度か繰り返していると握った瞬間火花が散った。


「ふむ……」


 火花の散った手を開くと、小さな欠片がいくつかできていた。透明な欠片は掌の上でコロコロと転がった。

 その小さな欠片を飲み込んでからもう一度強く拳を握った。次にできたのは先程よりも大粒の結晶である。こちらは大切そうにクロマで包み、しまい込むのだった。


 あらかじめ指定していた限界までクスエルの力を吸収し、あとは限界値からの回復分を随時吸収するだけとなるまで、そう多くの時間は必要なかった。

 その分の負担は相当なものであるが、回復する速度が読めなかった以上、仕方のない事である。


 吸収する力が安定し、シェリルにかかっていた負担は一気に軽くなる。


 クスエルの方も、急激に力を奪われる状態から一定の力の保有状態へと変化した為、持ち直してきたようだ。緩慢な動きではあるが体勢を元に戻し始めている。

 力の移動が緩やかになった今、保有する力に差はあれども互いに様子を見合う程度の余裕が戻ってきた。


 そんな中、動き始めたのはアンドレアルフスだった。

 軽快な足取りでクスエルの隣までやってきたアンドレアルフスは彼を覗き込んだ。クスエルは小さく眉をひそめたが、大きく表情を変える事はなかった。


「愛しいあの子からきついの食らったわねぇ」

「……一瞬でも迷ってしまった己への試練であろう」

 相変わらずの様子にアンドレアルフスはにやりと笑った。まだ、天使としての正常な思考ができているようだ。


「前回皇族を乗っ取ってやらかした天使とはまた違うわね」

「私がこの世界で天使の動きを耳にした事はない。

 まあ知っていたとしても、皇族の誰かに降臨したに違いないが」


 色欲にまみれていても、この一族は天使を降臨するのに非常に向いた器であると続ける。クスエル自身、あまり皇族に良い思いを抱いてはいないようだが、召喚と同じく降臨にも相性が良くなければ簡単にはできないものであると言われてしまえば納得がいく。


「今の私は、この世界で姿を保ち、正常な判断を下す事のできるぎりぎりの状態にある。

 以前こちらに訪れた天使が何をしたかは知らぬが」

 クスエルはそう前置きをして、アンドレアルフスを正視した。悪魔との接触を厭うていた彼らしくない行動である。


「私は、純粋に彼女を憂いているのだ」

「――ふぅん?」

「私は召喚術士である彼女に、魔との交流を完全に断たせようとは考えていない。

 この世界で唯一の召喚術士が穢れぬよう、苦しまぬようにしていたいだけなのだ」


 天使は嘘をつけない。クスエルの本音がアンドレアルフスへ真っ直ぐに突き刺さった。

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