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贖う者  作者: 魚野れん
第十四章 因縁の血族
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厄介な消耗戦

 天使は表情を変えずに両腕を上げた。途端、周囲が歪んで姿を変えていく。少々特殊ではあるが、空間移動なのだろう。歪みが収まれば、そこは闘技場であった。

 円形に作られたその建物は、中央が一番低く、どの席からも見下ろせるような形を取っている。もちろん観客はいない。


「勝利の報酬は、彼の召喚術士でよいか」

「好きにしろ。どうせ俺が勝つ」


 アンドロマリウスの言葉を軽く笑い、天使は勢いよく飛び上がった。それを見送りながら、アンドレアルフスへと声をかける。

「アンドレ、シェリルを」

「分かってるわ。あたしのお姫様が目覚めたら一番に教えたげる」

 言い終わる前に彼は軽い口調で答える。その隣では親友の姿をとっている幻影が優しく微笑んでいた。


「さっさと始末してきなよ。

 私もここで見守っていてあげるから」


 プロケルとなったアンドレアルフスの幻影がひらひらと手を振る。アンドロマリウスは彼らを振り返る事なく翼を広げた。ふわりと浮かび上がり、天使とは間逆にゆっくりと空へ上っていく。


「……余裕ぶっているけれど、マリウスにそんな余力あったかな」

「あたしの見込みでは、持久戦に持ち込まれたら終わりよ」


 アンドレアルフスは上空を見上げたまま溜息を吐いた。真夜中である今、彼の吐いた息は白いもやを生み出した。

 全体的に色素の薄い悪魔はシェリルを無関心そうに見つめている。


「早く彼女、目が覚めると良いね」


 瞳に一切の感情を映さぬ幻影の言葉に、アンドレアルフスは返事をしなかった。




 闘技場の上空を戦闘の場とし、黒翼の悪魔は天使と戦っていた。天使の方はかなり余力がある様子で、力を無駄遣いしながら能力を誇示してくる。

 そんな天使をいなしながらアンドロマリウスはこれからの戦い方を思案する。


 天使はこの闘いにルールを設けた。それはこの国の民への影響を最優先に考えたものであり、この世界への影響も考慮されたものであった。

 世界の調和を整える役割を担っている天使からすれば当然の事であるが、これは少々アンドロマリウスにしてみれば足枷である。


 この闘技場の範囲を超える規模の力を発揮してはならない。騒音もだめだという。真下にシェリルとアンドレアルフスがいる事を考えれば、大規模で無茶な力の使い方はできない。

 それでも力の制御をいちいち求められる為、普段よりも消耗が激しい。


 アンドロマリウスは自分が契約している召喚術士との接触をできる限り絶ち、結構な時が経っている。この世界で生きる許可を得ている主がいるからこそ、契約した悪魔は自由に動けるのだ。

 今のアンドロマリウスは、シェリルの許可なしに扱っていた力が多くなるほど負荷がかかってくる。アンドレアルフスよりはましだが、状況としては彼のそれに等しい。

 思い通りにいかず舌打ちしそうになり、代わりに唾を飲み込んで地上へと急降下した。


「まだ目覚めないのか」

「一応会話はできるんだけど、どうにも話が噛み合わないのよねぇ。

 早く起きないとお兄さんたちが襲っちゃうわよぉー」


 急いているアンドロマリウスに、アンドレアルフスは少しの危機感を抱きながらシェリルの頬を軽くつつく。当のシェリルはその刺激に対し、迷惑そうに眉を寄せただけだった。


「……倒そうと思わず、この子が目覚めるまで適当に相手しててちょうだい」

「……」

「いいわね?」

「……分かった」


 不満そうに言い淀むアンドロマリウスであったが、シェリルが早く目覚めてくれないと困るという気持ちは彼と一緒であった。

 相手が消耗戦に持ち込もうとしているのは分かりきっている。視覚的に派手な攻撃は、アンドロマリウスの防衛意識を高めさせる。無意識の防御に力を使わせ、削っていくつもりなのだ。


 空中にして、常に力を消耗させている事と合わせれば、決して相手もふざけてこのような戦い方をしている訳ではないのだった。

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