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贖う者  作者: 魚野れん
第十四章 因縁の血族
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眠るシェリルと二人の悪魔

 アンドロマリウスはシェリルを遠いと感じた事が数回ある。それは己との精神的な遠さであり、物理的な遠さであった。

 だが、今回のような、近くにいるはずのシェリルを遠い存在のように感じたのは初めてだった。


 シェリルがアンドレアルフスに隠された時は焦燥感こそあれど、頭の片隅に心を許す誰かが起こしたものだろうという考えがあった。


 シェリルは目の前にいる。それもユリアの姿ではない本来の姿で無防備に、どういう事かアンドロマリウスが与えられた部屋で眠っている。彼女の穏やかな寝息は、アンドロマリウスを和ませるどころか、不信感を与えていた。

 シェリルはアンドロマリウスの部屋も、アンドレアルフスの部屋も、どこにあるか知らされていなかったはずだ。


 まさか、間違えて入り、かつ寝入ってしまうという事はあるまい。それに、敵地のど真ん中で堂々とこんな姿を晒す神経をしている女でもない。そうでなくとも、術が解けているのだ。

 シェリルの身に何かがあったと考えてしまうのは当然の事だった。


 目の前で眠っている女は、特に何も問題のないように見える。

 だが、どうしてか存在が遠く感じる。アンドロマリウスは不思議に思い、彼女の額に自分のそれをあてた。


 彼女の中を覗き見ようとすれば、どういうわけか、白い世界が広がるだけで本人の世界が見あたらない。まるで、別の人間の中へと迷い込んでしまったかのようだ。

 もう一度覗き込んでみても、結果は同じであった。


 しかし、これはシェリル本人である。アンドロマリウスが自分の契約者を間違える事はありえない。

 シェリルの魂が凍結されたか、封印されたか、何らかの問題が引き起こされているに違いない。それも、契約している悪魔に悟られる事なく実行した。

 契約者の身に大きな異変が起きれば、互いの能力の強弱は関係なく、分かるはずだ。


 はず――というのもアンドロマリウスがこのような事を経験したのが初めてだからである。

 つまり、これは異常事態だ。


 アンドロマリウスは目立つ事を厭わず、シェリルを抱き上げてアンドレアルフスの部屋へと急いだのだった。

 アンドレアルフスの部屋に現れたアンドロマリウスを見た彼は、小さく眉を上げただけだった。分かっていたのか、と問えば違うと返事が返ってきて、余計に分からない。


「フロレンティウスにはばれっばれって訳よ。

 これは宣戦布告なんじゃない?」


 じっと見つめれば、アンドレアルフスは面倒そうにしていたが、教えてくれるらしい。気色の悪い、派手な女の姿をしたアンドレアルフスはその豊満な胸を寄せるように腕を組んだ。


「我慢できなかったあれが仕組んだんだわ。

 誰がどう見ても、あの子が件の召喚術士だなんて丸わかりなわけだしね。

 シェリルの所有者は自分だと、暗に示したの。

 あんた、馬鹿にされたのよ」

「……」


 アンドロマリウスが何を思ったのか、アンドレアルフスは分かっているらしい。アンドロマリウスは、アンドレアルフスの考えが分からない事がしばしばある。

 今回は正にそれだった。


「どんな方法でこの子を落としたかは知らないけど、この子をかけて戦えば目覚めると思うわ。

 この子に危害を加えるわけがないんだし」


 彼はそう言っているが、この言葉には「……今の所はね」と但し書きがついているのだろう。


「この子の肉体だけならあたしが守ってあげる。

 あたしのお姫様だしね」


 アンドレアルフスはそう言うなり、元の姿へと戻ってシェリルを受け取った。彼女を抱き抱えたアンドレアルフスは、心なしかシェリルの存在を実際に確認してほっとしたかのようだった。


「まだこっちの術は解けてないのね。

 ……話が聞けたら少しは状況が分かるんだけど」


 彼女の額に口付け、呟くと彼の隣に見慣れた姿の幻影が現れる。シェリルに憑いていたはずのものだ。

 今はプロケルの姿をしている。


「何。私に疑問をぶつけても教えてあげられないよ?

 彼女が眠る直前までいたのは、私ではなく幻影のロネヴェだからね」

「何よ、使えない幻影ね!

 ……まぁ良いわ。じゃ、ここは任せて早く行ってきて」


 詳しい話も聞けないまま、アンドロマリウスはフロレンティウスがいるであろう部屋へと向かった。

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