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贖う者  作者: 魚野れん
第十四章 因縁の血族
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アンドレアルフスのネタばらし

 シェリルは溜息を吐いた。

 フロレンティウスはこの部屋から出て行った。代わりに、簡単な料理が運び込まれた。ひよこ豆のスープにメルツィカの薫製を挟んだパンという組み合わせである。

 メルツィカの薫製には何の木が使われているのか分からないが、独特な甘い香りをしている。思いの外シェリルの口に合う。軟禁状態にあるシェリルでも、思わず口元を緩めてしまう。


「おいしい食事で懐柔って訳でもないのよね。

 これは……皇族の誇りって奴かしら」


 ふぅ。と再び息を吐いてスープに口を付ける。こちらは優しい味で、体に染み渡るかのようだ。今の所、フロレンティウスと彼に降臨している天使はシェリルに何かをしようとは考えていないらしい。

 それがどうにもシェリルに違和感を与えている。腑に落ちないのだ。悪魔二人に気が付かれたら、この作戦の遂行は難しくなるだろう。今が好機だというのは誰にだって分かるはずの事である。


 それなりに自信あっての放置なのか。何の感情も見せない彼からは、何の情報も読みとれなかった。アンドレアルフスの施した化粧に何か仕掛けでもあったのかと疑いたくなるほど、彼には何の動きもなかった。

 シェリルは食事を終えると暇を持て余すかのようにソファへと横になった。眠気はない。じっと一点を見つめたまま、微動だにしなかった。


 静かに時間が過ぎていく。この部屋は時間が止まっているかのようである。シェリルはそっと息を吐く。吐いた息だけが、時が刻まれている事を教えていた。

 どれくらいそうしていたのか。シェリルはまだ動かない。その姿は何かを待っているようにも見える。シェリルは確かに待っていた。


 本人も「何か」とは具体的には分かっていないが、とにかく何らかの動きがあるのを待っていた。随分と時間が経っているように感じるにも関わらず、何も起きない事を不思議に思っていた。


 だが、やれる事も少ない今、シェリルには待つ事しかできないのだ。もちろん、この部屋から抜け出せない訳ではない。考えなかった訳でもない。

 それでもシェリルがこの部屋から動かずにいるのは、自分のいるあのエブロージャを大切に思っている為であり、悪魔二人を信じているからである。

 現在二人がどんな状況であるのか、どんな行動をしているのか、全く分からないが、シェリルが彼らを信じる気持ちは少しもぶれていなかった。


「何落ち着いちゃってるの」


 声が聞こえてきた。シェリルは跳ね起きると辺りを見回した。姿はない。

 シェリルと直接話しかけてきたと気が付いた彼女は溜息を吐いた。


「……勝手に動かず、待ってたのよ」

「ふふ、お利口さん」


 アンドレアルフスの声だった。ただ、少しの違和感があるが。

「フロレンティウスが動いたわね」

「アンドレ、嘘ついたでしょう」

 シェリルが指摘すれば「あら、ばれちゃった?」と彼は笑っていた。シェリルは待っている間に一つの結論に辿り着いたのだ。


「悪魔と寝ていない処女を探しているのに、娼婦まがいの召喚術士に引っかかる訳がないじゃない。

 代役にもならないわ!」

「……やっと気が付いたのねぇ」


 くすくすと、楽しそうに笑っているアンドレアルフスを頭の中で睨みつける。


「ネタばらしすると。

 あの男も時間稼ぎにマリアがやってきたと分かっているはずだったから、焦らし続けて自爆してもらおうと思ってたのよ。

 それが、本物登場しちゃったから、さあ大変。

 急遽、本物を餌にする作戦に変更したってワケ」


 シェリルは虚空を睨み、心の中で誓った。全部が無事に終わったら、ぶん殴ってやる。と。

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