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贖う者  作者: 魚野れん
第十四章 因縁の血族
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お洒落にお化粧

 仕上げにクロマを飾りつけたシェリルは周囲を見回した。この部屋は衣装部屋のようなものなのだろうか。大きな鏡はあれど、化粧台はもちろん化粧品の類も見あたらない。

 着飾った状態で化粧が普段のそれ、とはこれまた随分ちぐはぐである。シェリルはできればこの部屋で全て済ませてしまいたかった。


 一度部屋へ戻り、そこで化粧をするしかないようだ。中途半端な姿は見られたくない、と思いつつこそこそと扉を小さく開いた。

 ちらりと外を覗けば、廊下には誰もいなかった。

 いや、正確には従女が待っていたがフロレンティウスやアンドロマリウス、アンドレアルフスといった男性陣はいなかった。


 見知った存在がいないのに安堵し、シェリルは今度は堂々と扉を開いた。従女が姿を現すやいなや、従女全員頭を下げる。

 彼女たちの先導で移動する。来た道とは違う事に不安を覚えながらも、そのまま後をついて行く。


 その内にシェリルはある事に気が付いた。どうやらこの遠回りは、ちぐはぐな姿のシェリルを他の者へと見せない為の配慮らしい。

 違う道を歩いてはいるものの、向かっている方向は大体あっている。


 つまり、人気のない道を選んで移動しているのだろう。そしてその考えは合っていて、今ちょうど見知った通路が見えてきた。


 シェリルはほっと胸を撫で下ろし、いくばくか緊張を緩ませる。この城から、いや、カリスから離れるまでは完全に油断は出来ない。

 シェリルは気を引き締め直す為に、不自然に思われない程度に、深く息を吸い、ゆっくりと吐き出そうとした。


「!?」


 がしりと肩を掴まれ、近くの扉の中へと引きずられる。シェリルは突然の事に声を出す余裕もなく、目を見開いたまま息を止めた。

 引きずり込まれた部屋の中は明るく、落ち着いた雰囲気だった。


 シェリルは思いきって息を吐き、呼吸する。ふんわりと甘い香りが漂う。

 そうしてシェリルを部屋へと引き込んだ人物が、フロレンティウスや従女などではない事に気が付いた。


 半ば腕をふりほどくようにして振り返ると、そこにはシェリルを派手にした雰囲気の女がいた。マリアという召還術士のふりをしたアンドレアルフスである。

 彼は口元に人差し指をあて、いたずらっ子のような笑みを浮かべている。


 シェリルはわざとらしく嫌そうに息を吐いてから笑顔を見せた。

 手招きされるままに部屋の奥へと進めば、化粧品がずらりと並んでいた。シェリルがこの部屋に引きずり込まれたのは、彼女の化粧をする為だったらしい。


「さぁ、おめかしするわよぉ?

 あたし張り切っちゃう」

「……お手柔らかに」


 どこから取り出したのか、彼は長い紐で腕まくりで余ったケルガを、胴体にまとめてくくりつけ始めた。もちろん化粧中、あちこちに不用意に触れない為の配慮であるが、気合いを入れているのを態度で示しているかのようであった。


 まずはクリームを塗りたくり、簡単にしていた化粧をすべて落とす。化粧水でぬぐい去ったクリームを完全に拭き取り、改めてクリームで保湿する。

 軽くマッサージもかねて行われた保湿によって、シェリルの頬はほんのりと血色が良くなっていた。


「あんたのお化粧なんて、初めてね」


 薄く粉をはたき、眉を軽く整えるように色を乗せた。少しだけ眉の端を切っ先のように尖らせる。

 頬紅は上の方に軽く乗せるだけにし、その分瞼にはしっかりと色づけていく。


 ケルガの色に合わせるかマリアは迷う様子を見せたが、結局ブラウン系の落ち着いた色合いにする事に決めたらしい。

 薄目を開けて確認した所、斜め前にあった鏡には、目元をしっかりとなぞってきつめの雰囲気になったユリアの顔が映っていた。


 どれくらいこの顔が変わるのか、シェリル自身も楽しみになってきた。本当の自分の顔ではないが、化粧というものはいつでも楽しいものだ。

 変わっていく顔をちらちらと確認しながら、シェリルの心は弾んでいった。

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