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贖う者  作者: 魚野れん
第十四章 因縁の血族
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フロレンティウスの衣装選び

 シェリルの動揺をよそに、フロレンティウスはユリアに似合いそうな色合いや生地を探していた。

 シェリルと違い、ユリアは控えめな雰囲気の可愛らしい姿をしている。


 地味ではないが、特別整っている訳でもない。

 砂漠の砂というよりは、森林の土のような深い焦げ茶色の髪に、ヘーゼルがかったアンドレアルフスの一族に共通する瞳。


 中性的な雰囲気のあるヨハンと比べれば、少しだけ女性的な色の濃いユリア。

 同一人物とはいえ、この微妙な差異は二人を双子として周囲に知らしめるに十分な価値を持っていた。


 どちらの姿にしろ、化粧をしたらかなりの美人に化けられるだろう事は誰もが口にはせずとも一度は思ったに違いない。

 強い特徴のない顔をどう調理するかによって、服の選び方は変わってくる。フロレンティウスはどのような方向で繕うのだろうか。

 今回は化粧が後だ。女狂いの皇は、どれ程目が肥えているのか、本領発揮といった所だろう。


 シェリルは陰謀じみた裏を探らないよう、極力目の前の事を考えるべく、そんな事を想像するのに集中していた。


「ユリア、どうだね」

「陛下が私を飾ってくださるというのであれば、それに相応しく変わりとうございます」


 昼食の時と同じようにはにかんでみせれば、フロレンティウスは柔らかな笑みを浮かべ、布をシェリルへとどんどんあてては変えていく。


 特に会話はない。


 何かを言われたり好奇心のあるあからさまな視線を投げてくる訳でもなく、尋問の時間として使われる訳でもない。

 父と子のように、年の離れた姉と弟のように、穏やかな時間が流れていった。


 数十枚ものクロマやケルガを組み合わせては変え、フロレンティウスは数種類の組み合わせに頷いては近くにまとめていく。

 シェリルはその様子を見ながら、彼の趣味が良い事に気が付いた。

 無難なものを選ぼうとせず、少しだけ背伸びをしたものを選んでいる。


 恐らくユリアが化粧した時の事を想定しているのだろう。地味な装飾物ばかりで強い印象を残さないように配慮したユリアの姿は、自分が思っている以上に周囲に溶け込んでしまう。

 城という場所においては、逆に目立ってしまっているが、街に出てしまえば見失ってしまいそうなほど、目立たない。

 それを十分にフロレンティウスは理解しているのだ。


 そして、あえて目立つようにさせようとしている。この城になじむように。

 フロレンティウスの考えている事は何となく分かる気がした。


「ユリア、今日はこちらに着替えよ。

 残りは着替えとして支度させる」

「はい、ありがたき幸せにございます」


 シェリルは渡された衣を手に、深く礼をした。彼はシェリルの頭を軽く撫で、部屋を出ていく。

 背後で扉の閉まる音を聞いてからシェリルは頭を上げた。


 フロレンティウスが選んだものは、二枚のケルガと一枚のクロマであった。今身につけているものを全て取り去り、シェリルは二枚のケルガが交差して雰囲気が変わるように普段とは異なる方法で体へと纏わせ始めた。


 いつもよりも時間をかけてケルガを着付ける。露出度は控えめに、だが華やかな雰囲気を目指す。

 フロレンティウスによって選ばれたケルガの色は赤と紫であった。派手な色であるように聞こえるが、どちらも穏やかで気品のある雰囲気になっている。


 赤い方は深みのある色で、ややぬめり感のある柔らかで重みのある生地だ。

 紫の方は、明るい雰囲気の光沢感がある軽い生地であり、赤い生地とは間逆であるとも言える。


 両極端なそれらをねじり込むように重ね、所々で花のように括った。一人で着付けるには少々難しい着方であるが、シェリルは誰にも手伝わせる事なく身につけた。


 ユリアの体には、フロレンティウスに知られてはいけない秘密が多いのだ。この城の人間を信じてはいけない。隠し通さなければならない事ばかり。

 シェリルの盾として堂々と側に立ってくれる人は、誰もいなかった。

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