表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
贖う者  作者: 魚野れん
第十四章 因縁の血族
187/347

密談と雑談

 冷静になっている今ならば分かる。あの時の幻影が冷徹であった意味が。シェリルが無意識の内に、そう望んでいたのだ。

 ロネヴェを愛しく思っている自分が、ロネヴェを殺してしまった自分が、アンドロマリウスにロネヴェを殺させてしまった自分が、それを経て悠々と生活している自分が、許せなかったのだ。


 口論でアンドロマリウスが去っていったのが、よほどシェリルの心に影を落としていたらしい。彼らはシェリルを守る為に、それぞれのやり方で動いていたというのに。

 シェリルは自分の身ばかりかわいがって、そんな動きも見えていなかったのだ。


「幻影も私が落ち着いてきたからか、言う事きいてくれるようになったし。

 私、ちゃんとあなた達の邪魔にならないように動くわ。

 どうすればいい?」


 シェリルはまっすぐとアンドレアルフスを見た。彼は赤くぽってりとした唇をきゅっと上げて笑った。垂れ目がちな瞳は細められ、ぞわりとした感覚がシェリルの背を駆け上った。


「まずは、ここから穏便に離れる事。しばらくはその姿で過ごす事。

 そして一番重要なのは――」

「……」

 アンドレアルフスの言葉を待つ。


「これ以上、あの男の好奇心を煽らない事」


 その瞳は真剣そのものだった。フロレンティウスの好奇心の目から逃げろと言われても、シェリルにしてみれば、どうしてこちらに目が向けられるのかいまいち分かっていなかった。

 シェリルが顔をしかめるのを見た彼は、簡単な事だと言わんばかりに言い放つ。


「つまらない人間だと思わせればいいのさ。

 自分は特別な人間ではないのだ、とね」

「それって一番難しい奴じゃない。

 一人で乗り込んできた時点で、目を付けられたわよ」

 盛大に溜息を吐く。彼はからからと笑って冗談を言う。


「三人で入れ替わってユリアは一度抱かれとくかー?

 攻略できない女って、無条件に気になるだろ」

「だめよ!」


 シェリルは強く反発した。

 アンドレアルフスはじっとシェリルを見つめ、得心がいったという風に頷いた。


「リリアンヌと同じなのか」

「そうよ」

「じゃ、やめといた方が良い」


 別に俺だから死にはしないがなー、絶対面倒な事になる! と続け、マリアらしからぬ姿でがしがしと頭をかいた。

 美女がやるとかんしゃくを起こしたように見える。シェリルは笑う場所ではないと分かっていたが、口元が緩んでしまう。

「ふふっ」

 笑われた当人は動きを止めてその理由を考えようとしたらしいが、すぐにその原因に行き着いたようだ。


「ちょっと形が崩れたな」

「いや、もう言葉遣いが戻っているし、今更だと思う」

「そりゃそうだ!」


 シェリルの突っ込みに大笑いする。それからはアンドレアルフスが魔界に戻っている間の地上での出来事や、魔界での療養中にあった面白い出来事を話し、離れていた時間の穴埋めをしたのだった。




 午前中をアンドレアルフスとの打ち合わせと雑談に使ったシェリルは、昼食時にフロレンティウスへと街へ戻る旨を伝えようとしていた。

「発つのなら、朝の方がよろしい。

 ここから隣の街まで半日はかかる。

 お前の足では真夜中になってしまうだろう」

「……」

 カリスを出たらすぐにでも術式を展開して街へと戻るつもりだった。言われて気が付き、シェリルは礼をする。焦りすぎたか……とフロレンティウスをちらっと見れば、彼は素知らぬ顔で昼食に出されたひよこ豆のスープを口にしている所だった。


「そんなに早く帰りたいのか」

「え?」


 シェリルは一瞬、どういう意図でフロレンティウスが口にしたのか分からなかった。

2018.11.3 誤字修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ