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贖う者  作者: 魚野れん
第十四章 因縁の血族
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召喚術士の立ち位置

 シェリルを模した姿が溜息を吐いた。金糸がさらさらと肩からこぼれ、シェリルでさえうっとりとしそうな香りがふんわりと漂った。

「魔界と天界のどちらにも属していない状態で悪魔を従わせている女が、完全に魔界側へと属する前に決着をつけたいんだろうよ。

 悪魔と契約はできていても、処女だろ?」


 どうせ分かる事だ。シェリルは素直に頷いた。


「契約している悪魔と契約していない悪魔、合わせて二体を抱え込んでいる召喚術士だ。

 いつ、悪魔が気まぐれを起こして染めないとも限らない」


 シェリルとしては、この二人の悪魔のうちどちらかと、という考えはないし、今後もないと思っている。

 つい先日まで不信になっていたが、それは勘違いだった。良好な関係は築けているとは思う。彼らは悪い男ではないとも思う。


 だが、それとこれは話が違う。


 そもそも片方は恋人の仇である。確かに、出会った当初の頃とは違って殺したいほど憎いとは思えなくなった。

 彼の存在は、結果としてシェリルに良い影響しか及ぼしていない。だからといって安易に彼とそういった関係になるとも思えない。


「あんたの考えは分かる。

 でも、天界はそうは思っていない」


 シェリルの思案顔をどう捉えたのか、アンドレアルフスは首をすくめた。


「悪魔との繋がりが濃い状態の人間と天界の奴が直接どうにかなる事はありえないが、人間へと降臨すればそれはクリアできる。

 あんたが天界側に染められたら、アンドロマリウスは強制的に契約を解除され、痛手を被り魔界へと戻る。

 天界としては、あわよくば弱っている間に悪魔を殺したいと考えているだろうな」


 おもしろい話ではなかった。だが、天界の奴らが考えそうな事ではあるなと納得はした。人間以上に話の分からない奴らである。

 どうしてそんな存在を人間は善き存在として崇めるのか、召喚術士として直接彼らと出会う機会のあったシェリルには理解できなかった。


「――とまあ、そういう訳で」

 その言葉にシェリルは背筋を伸ばして座り直す。

「出来る限り、俺とマリウスはあんたの事をどんな姿であれ、表舞台に出させたくなかったんだ」

「……」

 諦めにも似た、柔らかな笑みを浮かべたアンドレアルフスがシェリルを真っ直ぐに見つめた。


「で、代役を立たせてしばらく探りを入れて、この舞台の脚本家をあぶり出して終わらせてやろうと思ってたんだが、あんたがやってきちまった」

「……せっかちで悪かったわね」


 タイミングが悪かったと言わざるを得ない。

「来ちまったもんはしょうがないさ。

 それより、随分おとなしいけど、その幻影大丈夫か?」

 彼の言葉に反応し、幻影はカッと口を開いた。


「良い子にしてたんだよわりぃかー!?」

「何だ、そういう事か」


 元気そうな姿を見た彼は口元を緩ませた。シェリルは聞きたかった事を今だとばかりに割り込ませる。シェリルからよく言い聞かせられている幻影は、口を閉じた。

「この幻影があなたにははっきり認識できるのに、何でマリウスはだめなの?」

 この前、説明するのは後で、と言われたきりになっていた事であった。


「簡単さ。マリウスがロネヴェの核を持っているからだ。

 厳密には違うんだが、あいつの存在はマリウスでありロネヴェでもあるという感じだな。

 この幻影の仕組みは、幻影が憑いている対象者の記憶にの中の他者を引き出すものだ。

 その状態の幻影を対象者以外が見るためには、幻影が扮する他者の記憶が必要になる。」


「つまり、本人だけど厳密には本人ではないから何となく認識できるのね」

「その通り。

 ロネヴェという存在を共有していない奴には、この幻影が存在しない事になる。

 使いようによってはすごく便利なんだぜ」


 そこまで説明してから、自分の術ではないが、と付け加えた。シェリルが質問を始める前に、彼どんどん話を始める。


「この幻影はプロケルの術だ。勝手にプロケルの奴がやったみたいだがな。

 見た時は驚いたよ」

 親友が自分と同じ方向を向いて動いている事が嬉しいのかもしれない。翡翠の瞳がきらきらと輝いていた。


「あんたの周りにいる人間はロネヴェを見た事がない。

 俺もマリウスもいない時、あれが見えるのは一人だけだ。

 つまり、あんただけの完璧な話し相手になったわけだ」

「……すごくなじられたけど」


 シェリルが恨めしそうに言えば、彼は楽しそうに笑ったのだった。

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