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贖う者  作者: 魚野れん
第十四章 因縁の血族
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泣き虫なユリア

 シェリルが二人の存在が入れ替わっているのを興味深く見つめている内に、黒い悪魔と金髪の美女の位置が変わった。

 アンドロマリウスは元の黒い悪魔に、黒い悪魔の姿をしていたアンドレアルフスは美女の姿になったのだ。


「戻ってくるってあんたと約束したのに、こんな所にいて悪かったな……」

「まだ詳しく話を聞いてないの。

 ただ、私の為ってしか」

「あー……後ででも良いか?」


 言葉を濁すと言うよりは、何か他の事を気にしているといった様子の美女は、前髪をくしゃっと握り、俯いた。


「今回の皇、無類の女好きであんたの事小耳に挟んだら呼んでこいって言うんだ。

 本当はこのままこっそり返してやりたかったんだがなー」


 うんうんと唸り始める彼を見ている内に、シェリルの心にじんわりと安心感が広がっていく。迷惑をかけすぎて見限られたと思っていた。アンドロマリウスに会えた時よりも、嬉しい気すらする。

 何よりも、この暖かで柔らかな優しさが懐かしい。


「俺のお姫様、後でちゃんと説明するから、許してくれる?

 ちょっと面倒だけど皇と会わなければならない」


 分かったと頷けば、アンドレアルフスはわしゃわしゃとシェリルの頭を撫でた。驚いたのはシェリルのほうであるはずなのに、目を見開いたのは金髪の美女の方であった。

 だがそれもすぐに柔らかな笑みへと変わり、その姿は視界が歪んで見えなくなった。


「そんなに俺と再会して喜んでくれるとは、嬉しいもんだな。

 ほら、目が赤くなるぞ」


 目元にアンドレアルフスの唇がそっと触れる。こぼれ落ちる涙は次々と彼に吸い取られていく。ぼんやりと、金色のまつ毛がシェリルの目に映った。

「触れられるからってくっついてんじゃねぇよー」

「……」

 シェリルの耳元でロネヴェの声がする。不機嫌そうだ。彼女は思わず笑った。


「俺の慰めより、幻影のぼやきの方が良かったみたいだね」


 あ、とシェリルが思った時には遅かった。アンドレアルフスはすぐに身を離して苦笑している。

 その隣ではアンドロマリウスが、何が起きているのか分からずに、ただ眉を寄せていた。


「触りたければ、試してみればいいさ。

 できないだろうけどね」

「分かってて言うんだからタチ悪いぜ」

「しばらく彼女をいじめていた君に言われたくないなぁ」


 会話が成立している。シェリルとアンドロマリウスは互いに顔を見合わせてから、不思議そうにアンドレアルフスを見た。視線に気が付いたアンドレアルフスはくすくすと笑っている。

 色っぽい口元が歪む。


「時間ないから、後で説明するわ」


 本当に今説明する気はないのだろう。ずっと立ち上がって扉へと向かい、歩き始めてしまう。

「行くぞ。モタモタしていると奴の機嫌が悪くなる」

 アンドロマリウスがシェリルの腕を掴んで引っ張りあげる。されるがままに足早に部屋を出ると、今度はその腕にアンドレアルフス――いや、今はマリアか――が巻きついてきた。


「あたしから、離れちゃダメよ。

 折角会いに来てくれたんだもの。あたしの傍にいるのよ」

 高飛車なのか、甘えたなのか、何とも微妙な言い回しである。ねっとりした話し方は、シェリルの肌にこっそりと波を立てる。


「……はい、マリア様」


 マリアは豊満な胸元をシェリルの腕へと押し付け、彼女の頭に自らの頭を寄せる。今シェリルが借りているユリアの姿は、普段よりも少しだけ低い。その身長差で寄りかかられるのは歩きにくい。

 だが、これも身分を偽る為には必要な事だ。仕方がない。

 シェリルは溜息を心の中でだけこぼし、現皇陛下の待つ部屋へと移動するのだった。

2018.11.17 誤字修正

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