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贖う者  作者: 魚野れん
第十四章 因縁の血族
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女好きの皇陛下

「会いたかった。

 会いたかったけど、こっちの用事の方が緊急だったから会いに行けなかった」


 笑顔の次は、眉を下げて許しを乞うような表情へと変わる。アンドロマリウスではあり得ない表情の変化に、シェリルはついて行けそうになかった。

 そんな彼女の額に黒い悪魔は口づけを落とす。


 シェリルの困惑する様子を見ていたアンドロマリウスが、とうとう黒い悪魔へと手をかける。がっしりと肩を掴まれた悪魔は、悲鳴を上げた。曲げていた腰は伸び、床へ膝をついてしまう。


「痛っ、痛いってば!」

「元に戻るぞ。

 お前の百面相はおもしろいが、自分の顔では見たくもない」


 はいはい、と溜息混じりの返事を聞けば、アンドロマリウスは手を離して向かい合わせになるように膝をついた。

 アンドロマリウスが邪魔だと除けた椅子がひっくり返って大きな音を立てた。


 二人の悪魔は互いの額をつけ、目を閉じる。唯一ふれあっている額を中心に、二人の存在が捻れた。ぐにゃりと空間が捩れるように、二人の姿が歪んでいく。

 シェリルが凝視していると、捻れながらも二人の姿は逆転していくのが分かる。


 これは人間には出来ない技だなとシェリルは心の中で感嘆し、その術を知り、自分でも使えるように磨きたいと思う程には素晴らしかった。




「マリアに商館の者が訪ねてきた?」

 現在の皇、フロレンティウスが片眉を上げた。興味を抱いた時の癖である。彼の横に控えている黒い悪魔はその様子をじっと見つめていた。


「その者は……女か。ふむ」

「……」


 よからぬ事を考えているのが、力を使わなくとも分かる。どうせ、新しいおもちゃとして抱え込むかを考えているのだろう。

 表情を変える事はないが、黒い悪魔は心の中でフロレンティウスを罵倒した。


 この悪魔、アンドロマリウスの姿をしたアンドレアルフスである。

 シェリルが化けたと思われる人間がこの城へとやってきたと気が付いた為、急ぎアンドロマリウスと姿を交換したのだ。


 悪魔が商館の者と接するよりも、主代理を勤めている事になっているマリアが出向いた方が自然である。

 咄嗟の判断で、アンドロマリウスが金髪の美女へ、アンドレアルフスがアンドロマリウスへ、それぞれの姿を入れ替える事にしたのだった。


「おい、マリアと彼女に会いに来た少女とやらを連れてこい。

 折角の客だからな、もてなおしてやろうではないか」


 報告に来た者へとフロレンティウスが指示をする。彼が返事をして立ち上がろうとする瞬間、アンドレアルフスが動いた。


「陛下」

「ん?」

「俺が呼びに行こう」

「どうした」


 あまり口数の多くない悪魔が皇に口出しをしたのだ。

 フロレンティウスは物珍しそうに黒い悪魔を見つめた。


「久しぶりの再会だ。知らぬ人間が邪魔をすればマリアの機嫌が悪くなる」

「それは困るな」


 フロレンティウスはマリアの機嫌を損ねれば、お楽しみが減ってしまう事を十分に理解していた。

 アンドレアルフスの言葉に素直に頷き、代わりに行くよう指示した。

「では、失礼」

 フロレンティウスに黙礼すると、アンドレアルフスは悠々とした足取りで部屋を退出した。


 あの男の女好きにはいい加減うんざりしている。

 シェリルの身代わりとしてアンドレアルフスが扮するマリアを差し出したが、ちょくちょく寝所へと呼び出されて面倒な事この上ない。


 事情も分からず、おそらく悪魔二人に会おうとしてやってきたシェリルが巻き込まれでもしたら本末転倒だ。

 表情の変わらないアンドロマリウスの姿をしたアンドレアルフスの胸中は穏やかではなかった。

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