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贖う者  作者: 魚野れん
第十四章 因縁の血族
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妖艶な召喚術士とアンドロマリウス

「あたしに用事だって聞いたから来てあげたんだけど、変なのと一緒にいるのねぇ」

 値踏みするような、舐める視線にシェリルは眉を潜める。どうやら幻影が見えるらしい。同じく力を持っているからだろうか。

 それにしても美女ではあるが、随分と嫌味ったらしい女である。


「……これは別に関係ないわ。

 率直に言う。マリウスを返して」

「無理ね」

「!」


 即答され、シェリルの眉がつり上がる。声を荒げて良い場所ではない。シェリルはぐっと堪えた。

 気を紛らわす為に彼女を観察する。二人は無言で対峙した。


 シェリルは自分に似た風貌だと思ったが、近くで見ると微妙に違うと気が付く。髪は金色で毛先が微妙に波打っているし、目はタレ目がちである。長いまつげに隠された瞳の色は翡翠色だ。

 それに、シェリルにはない濃厚な色気。全くの別物であった。強いて言うならば、シェリルに似せて女装したアンドレアルフスといった所か。


 一通りの観察が終わり、改めて顔を見れば、彼女と視線が絡み合った。タレ目がちなのに、つんとしたわがままそうな雰囲気の顔だ。

 眉の形のせいだろうか。ずっと見ていると、美女が溜息を吐いた。雰囲気が少しだけ柔らかくなる。


「まあ、周りには聞こえないから正直に言っちゃうけど。

 あたし、アンドロマリウス」

「は?」


 アンドロマリウスだと名乗った美女は、ふふんと得意げに笑った。シェリルはその言葉を信じられず、ただじっと彼女を見つめているだけである。

 アンドレアルフスだと言われた方がまだ分かるというものだ。つい胡散臭そうに見てしまう。


「本当だ。そんな目で見られると自分が惨めな気持ちになるからやめてくれ」


 そう言われて、シェリルはこの美女がアンドロマリウスであるとうっすらと認識した。完璧な擬態である。

 人間からしたらそう思うだけで、実際の所は悪魔にとっては簡単な事かもしれないが。声はそのままだからなんとも言えない気分だ。


「俺は、街を出るなと言ったはずだが」


 アンドロマリウスは厳しい視線をシェリルによこす。彼女はそれに挑むかのように、まっすぐと視線を合わせた。

「確かめにきたの」

「何を?」

 馬鹿にするような雰囲気を隠しもしない彼に、シェリルはむっとしそうな気持ちを抑えつける。


「……あなたを信じたいから、この目で直接現状を見たかったのよ」


 アンドロマリウスはシェリルを探るように見つめていたが、すっと視線を逸らして話題を変えた。


「お前は何でプロケルの幻なんぞを連れて歩いているんだ。

 ロネヴェを模しているように見えるが、それはお前の趣味か?」


 幻影はしっかりと見えているが、シェリル以外にはぼんやりと映るものなのかもしれない。彼女はそんな事を思いながら彼について説明し始めた。

 プロケルとは、あのプロケルであろうが、シェリルは会った事のない相手を語る事はできずに無視をした。


「生きてた頃のロネヴェとは別物よ。

 私の知っているロネヴェはとても優しくて甘かったけど、この幻影は辛辣で口が悪いわ」

「俺はシェリルの思いを汲み取っただけで、別に悪い事なんざしてないぞ」

「何を言っているかとか、全く聞き取れんが……邪魔じゃないのか?」


 アンドロマリウスの言葉に、シェリルはおもしろい物を見るかのような視線を幻影へと向けた。

 存在を確固たるものとして認識していない者には、姿だけでもなく声すらも届かないのか。もしかしたら、この幻影はシェリル専用に合わせられているのかもしれない。確か、幻影は相手の精神を反映させると言っていた。


「シェリル、あんたにそんな風に見つめられると、興奮しちまいそう」

「うるさいわね」

「……やはり俺にはさっぱり分からん」


 アンドロマリウスはおもしろくなさそうに呟いた。

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