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贖う者  作者: 魚野れん
第十四章 因縁の血族
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敵城で蜃気楼を感じる

「折角だ。しばらくこの城で寛ぐが良い」

「……ありがたき幸せにございます」

 シェリルは気を抑え、丁寧な返事をした。因縁の皇族の隣には妖艶な美女がいて、更にその隣には憎たらしい黒い悪魔がいる。嫌な構図だった。




 シェリルは街を出て砂漠に入った人気のない場所まで歩いていき、カリスへの扉を作り出した。以前にアンドレアルフスから教えてもらった術式である。

 カリスの近くまで移動し、そのまま城へと向かう。門番にエブロージャの商館の使いだと告げ、召還術士に会いたい旨を伝えるとすぐに入れてもらえた。


 シェリルは応接室へと案内される事になった。移動中、派手な女性が中庭の向こうを歩いているのが見えた。

 その隣には黒い悪魔――アンドロマリウス――もいる。あれが召還術士なのだろう。


 ちらりと見ただけだが、どことなくシェリルに似た風貌をしている。無性に腹が立った。

 シェリルはかなりの時間、応接室で一人待ち続けている。待ちくたびれて、腹立ちはもうない。

 アンドロマリウスに会わせろと言いたかったが、召還術士以外を指名して会わせてもらえるとは思わなかったのだ。


 とりあえず召還術士に会う。話はそれからだ。

 彼女を待つ間、幻影がぶつくさと文句を言っている。無視していたが、暇だったシェリルは口を開いた。


「こんな所いたかねーんだ」

「……前より口調が荒いわね」

「良いだろ。どうせあんたが思っている通り、俺は偽者なんだから」


 言うとは思わなかった。いつも同じ存在だと言っていたこの幻影は、一体どうしたと言うのだろうか。

「どうせもう少ししたらバレる。

 あんたがあいつの口から知らされるよりマシだ」

 シェリルがこの幻影を本物だと思い続けていたわけではない。むしろ偽者だと思っていた。


 いっそ誰かに指摘されてしまえば良いとも思っていた。「あーあ、バレちまったー」とのんびり言う幻影を想像していた。

 だからこそ、今更どうしたのかと驚いたのである。


「俺は、蜃気楼みたいなもんさ。

 あんたの精神を反映して作られた幻影だ」


 シェリルはなるほどと思った。幻影のロネヴェはふわりと身軽にシェリルの正面に膝をつく。

「ある悪魔があんたの様子を見に来た時、イタズラ替わりに置いていった土産が俺だ。

 あんたはロネヴェに恨まれたかった。だから俺はこんなんなんだ」

 幻影はさして興味もなさそうに室内を見回す。


「マリウスは、アンドレもそうだが……あんたをたいそう気に入っていて、守りたくて仕方がないんだ。

 それくらい分かってやってくれ」


 死にゆく老人のように、穏やかな表情でそう言われると、シェリルもしんみりした気持ちになっていく。

 別れの時が近づいている、そんな切なさを込められると困ってしまう。ロネヴェの姿をとっているから尚更だ。


 幻影がシェリルの頬を撫でる。今までの暴言が嘘のような優しい触れ方であった。

 無論、幻影であるロネヴェが触れた所で、シェリルには直接的な感触などない。

 ただ、何となく触れているような気がするだけだ。


「面白いな、あんた。今の俺は穏やかな気分だ」

「……私を一人にしないでくれた事には感謝してるわ」


 一方的に責め、責められ、よく口論していた相手である。しかし今考えてみれば、自問自答しながら個の中で悶々としているよりも有意義な時間であった。

 自と他でのぶつかり合いは、シェリルの心を傷つけたが、溜まっていた膿を流れ出させる為には必要な事だったのかもしれない。


 素直にこの存在を認めきれないシェリルは面白くなさそうに手を離そうとした。


「イイ雰囲気な所ごめんなさぁい?」

 シェリルはその声に、手を戻そうとしている状態のまま固まった。中庭越しに見た、あの女性がいた。

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