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贖う者  作者: 魚野れん
第十三章 召喚術士の懐古
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召喚術士の出発

 ヨハンの言いたい事はシェリルにも分かる。アンドレの一族は従順だがシェリルが危険だと判断する事に対しては頑固だ。リリアンヌとは一緒に旅をした仲なだけあって、多少の無茶は見逃してくれていたが。


「ヨハン、私はあなたが姿を貸してくれようが構わないわ。

 行く事は決まってるのよ。ただ、成功率を高めたいだけ」

「……」


 シェリルの言葉に、ヨハンは顔をしかめた。気にくわない、と言外に示している。

 彼女は気にせず彼の頭を撫でて顔を近づけた。


「私、マリウスを信じてみたい気になったの。

 でもやっぱり自分の目で確認したい」

「しかし」

「別にこのめくらましだけで行っても良いのよ?」


 シェリルは頭に巻いていたクロマをひらひらとさせた。これを被った対象の存在感はかなり薄くなり、他者から認識されにくくなる。だからといって透明人間になるわけではない。

 気付かれる時は気付かれる。そういうものである。


「外出は駄目だ」

「行くわ。あなたには止められない。

 あなたにできるのは、私に姿を貸して少しでも向こうの人間に気取られないようにする事だけね」

「でも!」


 シェリルはあえて溜息を吐いて呆れた様子を見せる。いじわるだという自覚はある。

 だが、ユリアの姿を借りれるかどうかはシェリルが自分の目的を果たす為には重要な問題だった。


「このまま乗り込んで何もできずに帰るのと、姿を借りて穏便に事を済ますのとどっちが良いの。

 このまま乗り込んだ場合、下手すれば帰れなくなるわ。それでも良い?」


 ヨハンは悩んでいる。これは意地の悪い質問だし、彼はアンドレの一族だ。

 アンドレの一族として、アンドロマリウスの言葉を承伏したのであれば、これを反故にする事は一族としての誇りを地に落とす行為にも等しい。


 結果が良ければまだ良い。これが悪い結果になったとしたらどうか。必ず良い結果がもたらされるとは考えていないだろう。

 シェリルだって、そう楽観視しているわけでもない。自分が言い出した事だ。後々の責任は自分でとる。


「さあ、どっちが良いか選んで」


 無理矢理選ばせれば、何かあった時の言い訳にもなる。自分は拒否したけれど、本人が強く望んだのだと。

 長い沈黙の後、ヨハンは深く息を吐いてゆっくりと頷いた。その後ろでロネヴェが残念そうに頭を横に振った。




 商館の玄関口で、双子が別れを惜しんでいた。

「ユリア、おっちょこちょいなんだから気を付けるんだよ」

「分かってるってば。ヨハンは心配性なんだから!」


 ぷく、と頬を膨らませるユリアは端から見ても可愛らしい少女だ。対して同じ顔をしているヨハンの方はむすっとしており不機嫌そうだが、心配症なお兄さん然としている。

 双子を揃って見られる事は少ない。商館をよく知る人間は物珍しさから立ち止まってまで二人を見ていた。


「俺からすると、中の人間が分かるから違和感しかねぇな」


 ユリアの耳元でロネヴェが笑っていた。彼を無視して二人は会話を続けている。

「急ぎって言っていただろ」

「そうだった!

 すぐ戻ってくるね」

 ユリアはそう言うとさっとヨハンへ家族のキスを送り、手を振りながら街の外へと元気良く歩いていった。

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