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贖う者  作者: 魚野れん
第十三章 召喚術士の懐古
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信じられないシェリル

 ユリアはシェリルを睨む。シェリルは俯いたままだ。


「あいつは私が嫌になったのよ。

 今どこで何をしていようが関係ないわ」

「では、このままここで待っててくれるんだね?」


 シェリルが顔を上げる。その表情は困惑であった。なぜ念を押されなければならないのか、そんな疑念が浮かんでいる。


「だいたい、この街から出さないようにって空耳じゃないの」

「アンドロマリウスが言ったんだ。ちゃんとこの耳で聞いた」

「……あり得ない」


 ユリアはしまった、と思った。このタイミングで話をしたのは失策だった。折角勘違いしてシェリルが彼への興味を失っていたのに、興味をそそってしまった。

 勘違いをそのままにしておけば良かった。


「あの悪魔の目的は何」

「私が知るわけないでしょ」


 彼女は苛つき始めているようだった。ユリアはなるべく刺激しないようにしたかったが、難しい相談であった。


「でもあなたは聞いたんでしょう?

 どっちが本当なの?」


 ユリアは何を言えば良いのか、当時の会話を思い浮かべて整理する。アンドロマリウスは苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

 事情があってシェリルから離れるから、というだけの雰囲気ではなかった。


 つまり、シェリルが彼と揉めたのはユリアと会う前だったと考えられる。アンドロマリウスがシェリルから離れた後でユリアに彼女を託したというのであれば、ユリアへの言葉が正しいはずだ。

 だが、これを言ってしまえばシェリルが追いかけずにはいられないだろうとも思う。


「かの悪魔は、あなたを守ろうと必死だと私は感じた。

 それが私の中にある真実」


 シェリルに嘘は伝えられない。ユリアを含めたアンドレの一族は、アンドレアルフスの意志を第一に考える。アンドレアルフスの意志は、シェリルを全てから守る事。

 このまま放置していれば、シェリルは壊れてしまいそうだった。


 現に、彼女の視線はたまに違う場所を見つめ、表情豊かに動く。まるでそこに誰かがいるかのようだ。何が見えているのかは分からない。

 しかし、それが普通の行動だとは誰も思わないだろう。


「私は、自分の子供を殺させた女よ。

 マリウスはそんな相手に封じられたから従うふりをしていただけ。

 私を守ろうと必死になるなんて嘘よ」


 ユリアは溜息を吐いた。自分の知っている、自分が先代から聞いた召還術士とアンドロマリウスの関係とは大きく認識が違う。関係は良好だったはずだ。

 信頼関係も築かれていて、アンドロマリウスがシェリルを守ろうとしてアンドレアルフスと協力した話だって聞いた。それなのになぜ、そう言い切れるのか。


「私は自分を許しちゃいけないし、マリウスを許してもいけない。

 それに……私には、彼を信用して良いのか分からない」


 シェリルはそう言って少しの間黙ると、何かを追い払うかのように右手を振った。

 ついに、ユリアは指摘しないようにしていた事を口にした。


「シェリル、誰か見えるの?」

「見えてない!」


 シェリルは声を荒げた。見えている。そう白状しているも同然である。

 いなくなったアンドロマリウスの幻が見えているなら、こんなに問われなかっただろう。見えているのがアンドレアルフスだとは考えにくい。

 そう考えれば、残るは存在しないはずの者である。


「ロネヴェ」

「違う!あれは偽物なんだから!」


 大きく首を振り、否定したシェリルは耳を塞いだ。そっと立ち上がったユリアはシェリルの肩を抱き、自分の方へ引き寄せる。

 大きな反抗もなく、そのまま収まった。


「そんなに自分が許せない?」

「……」


 耳を塞いでいるシェリルであるが、聞こえないはずはない。彼女は震えていた。

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