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贖う者  作者: 魚野れん
第十三章 召喚術士の懐古
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両性の来客

 シェリルはアンドロマリウスが去ってから、初めての来客を迎えていた。その横には居るはずのないロネヴェの亡霊がいる。幻聴どころか幻視にまで浸食していた。

 ずいぶんと悪化したものである。


「早く追い払えよ、あんたには俺が居れば十分なんだ」


 彼女はロネヴェの声を無視し、来客へと集中する。来客とは、アンドレの一族であった。一見女性に見えるが両性である。

 リリアンヌとは違い、男性寄りだそうだが、ヨハンとユリアという二つの名前を使い分けて生活している変わり者である。

 因みに今はユリアの姿であった。


 彼は気さくな性格を活かし、シェリルと友人のような関係を築き上げた。シェリルは彼をお茶に呼んだりする事すらあった。

 そして、アンドロマリウスが居なくなってからは、空気を読んだかのように音沙汰のなかった人物でもある。


「シェリル、顔色が悪い」

「あなたもあまり良くないわ」


 シェリルに返され、彼は口を噤む。何かがあって急いでここまでやってきたのだろう。額には汗がにじんでいる。

 表情は固く、どこか緊張しているような節すらあった。

「カリスで不穏な噂があるのを知っている?」

 彼女の表情が強ばる。ユリアがアンドロマリウスの行方を知っているかのように聞こえたのである。


「皇家が召喚術士を囲っているというものです」

「は?」


 彼の話を聞いていくうちにシェリルの表情が険悪になっていく。噂とは、簡単に言えば悪魔を従えた巨大な能力を持っている召喚術士が皇に囲われ、享楽に耽っているというものであった。

 もちろんシェリルはカリスから遠いこの街から出ておらず、件の召喚術士とは別人である。


 シェリルが話を聞く限り、彼女は恐ろしいまでに自由な召喚術士であると言えた。皇の寵愛を得てみたり、拒絶してみたり、皇の側近にちょっかいを出す事もあるという。

 召喚術士とは、困っている人間の為にあるはずだが、そんな概念はないらしい。召喚術士は下半身の緩い人間が多いが、それは召喚した存在への対価である場合がほとんどだ。


 召喚対象でもない相手と好き勝手に過ごすのは、貞操概念の緩い人間か、娼婦上がりの好き者であるとしかシェリルには思えなかった。


 それだけでも同じ召喚術士として気に食わないのに、従えている悪魔がアンドロマリウスの特徴とそっくりなのだ。

 シェリルが苛付きを覚えるのも仕方のない事であろう。


「ずいぶんと派手な女のようで、こんな辺境も噂でもちきりだよ」

「……」


 シェリルの顔つきにユリアはゴクリと唾を飲み込んだ。その隣でロネヴェの亡霊が笑っている。


「シェリル、すげー顔だぞ!

 そんなにマリウスにご執心か?」

「……」


 心の中でロネヴェに否定の意を唱えて睨みつける。ロネヴェは愉快そうに顔を歪めてくつくつと笑う。

 シェリルの知っているロネヴェは、彼女に向けてこのような笑い方はしなかった。有り得ないロネヴェを見る事で、シェリルは冷静さを取り戻す。

 たちまちロネヴェの亡霊は見えなくなった。


「マリウスだとは分からないわ」

「可能性は十分にある。

 私、あなたをここから出ていかないように言いつけられているんだから」


 ただ、今まではシェリルが外へ出る気配がなかったからそのままにしていただけだと付け足し、ユリアは俯いた。

 彼は所在なさげに指を細かく組み替える。


「この状態で噂があなたの耳に届けば、きっとあなたは出ていってしまう。

 だから白状しに来たんだ」


 シェリルは鼻で笑った。

「私、マリウスと喧嘩別れしたのよ。

 わざわざあんな奴を追いかけに行くわけないじゃない」

 ユリアが顔を上げれば、言葉とは裏腹に心細そうな女が座っていた。今にも空気に溶け込んでしまいそうな雰囲気であった。

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