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贖う者  作者: 魚野れん
第十三章 召喚術士の懐古
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大切にする理由 *

「ねえ、どうして最後まで抱かないの?」

 シェリルは温めたワイン片手に問う。ロネヴェは彼女の横でごろごろしている。

「最後までしたら、あんた魔女になっちまうんだぜ」

 彼はシェリルと向き合うように体勢を変え、腕枕をして横向きになる。その表情は真剣である。


「シェリルは召喚術士だ。

 魔女になんてなっちゃいけない」

「……」


 彼の視線を感じながら飲むワインは微妙な味だった。先ほどまで感じられた香辛料の香りが全く感じられない。感覚が一時的に閉じたのだ。

 シェリルは一線を越えないロネヴェには、こういう瞬間に壁を感じてしまう。それがシェリルの身体にこうした不調をもたらすのだと信じている。


「私は私よ」

「俺が好きなのは召喚術士のシェリルだからな」

「……」


 シェリルが召喚術士にこだわるのをロネヴェは知っている。だから彼にそう言われてしまうと何も言えなくなってしまう。

 ロネヴェは暗い表情のシェリルを見て苦笑する。

「個人的には」

「?」

 先程よりも明るい声に、シェリルが首を傾げる。


「いつでもあんたの中がきつきつだから得なんだけど」

「馬鹿」

 シェリルの表情が少し緩んだ隙に、ロネヴェは手を伸ばす。シェリルの頬に触れたかと思えば、つまみだした。

「ちょっと!

 ワインがこぼれちゃう」


 少しつまんだだけで、シェリルの頬が赤く染まる。照れなのか、刺激による血液の集合かは分からないが、頬の染まった彼女はロネヴェに殊の外可愛らしさを感じさせた。

「あんたは自信もってろ」

「う」


 シェリルにそう言うと、今度は優しく頬を撫で始める。触れるか触れないかといった触り方にシェリルはこそばゆそうに笑む。


「いつも可愛いよ。

 あんたの中に埋め込みたい気持ちが無いわけじゃない。

 けど、大切にしたいのさ」


 あの頃はどういう意味が分かりかねていたが、今ならば分かる。シェリルの価値を下げたくなかったのだ。自分が死ぬんで責任が取れないと分かっていて、死後のシェリルが困らぬようにしたかったのだ。

 憎らしい事である。


 優しく愛撫する彼は、いつの間にかシェリルに覆いかぶさっていた。軽く口づけ、そのまま甘えるように額を首筋に埋めた。

 彼の髪がシェリルをくすぐる。優しい刺激にシェリルは喉を鳴らす。


「シェリル。愛してるから、大切にしたいんだ」

「ん」


 ロネヴェは穏やかな表情をしていた。シェリルは口を尖らせ、不満そうな表情を作る。もちろん不満だという訳ではなく、照れているだけである。


「可愛いな」

「……」


 黙り込んでしまったシェリルに気を使ってか、ロネヴェはまた彼女の横に寝転がる。

 ゆったりと伸びをして、シェリルに言葉をかけた。


「あんたはそのままで良い」


 シェリルはロネヴェを見た。やはり穏やかな表情をしていたが、シェリルに反論させないような強い眼差しを持っていた。

 この時のシェリルは、彼が自らの死を思い、後へと彼女を託す事を決意しているのを知らない。ただ、言いようのない強い意志を感じただけであった。


 ロネヴェから何かを感じる度に、気のせいだと無視していた。問いかけていれば、もっと踏み込んでいれば、結果は変わらぬとしても何かが違っていたのではないか。

 シェリルは甘い夢の中、後悔せずにはいられなかった。

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