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贖う者  作者: 魚野れん
第二章 魔界からの迎え
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理解不能な悪魔

 ひとしきり号泣した後、シェリルはまた人形のように動かなくなった。目の前に膝をついて涙の跡をつけた人形があると考えると、あまり良い気はしない。

 アンドロマリウスにとってもそうだったのだろう。


 一時間もしない内に、彼は動いた。

 鎖を解き、シェリルを抱き上げる。布一枚を身につけただけの彼女は、冷たくなっていた。

 シェリルの意識はまだ残っていたが、動くだけの気力はなかった。

 身体も冷え切り、動かす気になれなかったのだ。


 アンドロマリウスは浴場へと向かい、彼女ごと湯船に浸かった。彼女が用意した湯はそのままの状態を維持しており、心地よい温度がシェリルを包む。

 彼女の瞳から、一粒の涙が落ちる。それは、周りの暖かさに氷が溶け始めたかのようだった。


 それに気が付いたアンドロマリウスが彼女の涙を拭い、ついでに涙の跡を洗い流した。

 シェリルの瞳は、まだ何も映そうとはしない。その様子を見る彼の表情は、優しい行動とは真逆で冷ややかだった。


 十分に彼女の体が温まると、彼女の身支度を整えてベッドへと寝かせた。ぼうっと開いたままの瞳を、彼が閉じさせる。



「何の為に、あいつが死を選んだのか分からんな」



 アンドロマリウスの吐いた小さな呟きは、シェリルには届かない。




 翌日シェリルが目覚めると、アンドロマリウスが現れた。何事もなかったかのような彼とは裏腹に、シェリルは気まずそうにしている。


 シェリルは昨夜の出来事を殆ど覚えていた。

 泣き喚くという失態を犯し、自失状態になっていた彼女をベッドまで世話してくれた事も覚えている。恨む気持ちしか持っていない相手にここまでされると、シェリルとしてもどう対応して良いのか分からないようだった。


「お前がどう考えているかは分からないが、その印はお前が俺を解放しない限り消さない。

 お前のかけた術がある限り、基本的に、俺はお前の下僕だ。

 その権利を使って、こき使えば良い」


 シェリルの態度をどう取ったのか。アンドロマリウスは印について話し出した。

 気になるのなら、見えないようにする。だが、契約の解除はしないし、させない。

 お前の恋人を手に掛けた俺は、お前の下僕になる権利がある。など、勝手に話を進めていく。


 全く返事をしないシェリルに、彼は小さくため息を吐いて部屋から出ていった。


 アンドロマリウスの姿が見えなくなった途端、シェリルは頭を抱えて深い溜め息を吐く。変な事になった。

 それがシェリルの思いだった。


 確かに、シェリルは彼をこき使ってやるつもりだった。彼を無理矢理従わせるつもりだった。決して、これは相手から進んで提案される事ではないはずだ。

 シェリルには、アンドロマリウスの狙いが分からなかった。こき使っても、使わなくても、彼の思い通りになるような気さえしてくる。


 思い通りにならない動きなら、一度はそれに乗ってみるしかない。そうしてアンドロマリウスの狙いを見つけ出し、その狙い通りにならないようにしてやろう。


 シェリルは、難しく考える事を諦めた。

 情報が少ないから、判断できないのだ。そう考えた。


 情報を集めるには、多少媚びを売っておいた方が良いだろう。シェリルは気持ちを切り替えた。まずは、昨日の詫びとお礼をしなければならない。

 食事を用意したアンドロマリウスがシェリルの部屋へ戻ってくると、彼女は穏やかな表情で迎えたのだった。




 シェリルはその時の事を思い出して口を歪めた。立てていた肘を倒し、その上に頭を乗せる。彼女の動きに合わせて湯船が波立った。


 あれから百年経ったのに、まだ彼の狙いは分かっていない。

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