ロネヴェの可愛い論 *
シェリルにおぶさるようにしてロネヴェが抱きついている。シェリルの手元にはまだロネヴェの作った甘ったるい飲み物が残っていた。
「まだ飲み終わらないのー?」
「あとちょっと」
甘すぎて、シェリルの飲むペースも落ちている。それは分かっているのだがロネヴェの催促は終わらない。
「早く飲んじゃってよ」
「しつこいわね」
「えー?」
あまりのしつこさに、もういっそ一気飲みしてしまえとシェリルは器を手に取った。そしてそれをあおって一気に飲み込んだ。
シェリルは顔をしかめ、とてつもない甘さを耐える。
「よくできました」
彼のねぎらいの言葉には答えず、シェリルは机に突っ伏した。覆い被さっていたロネヴェはつられて頭を下げ、そのまま頭をぶつけてしまう。
「いってえぇ」
「うるさいわよ」
「シェリルのいじわるー」
耳元で騒ぐロネヴェをシェリルが叱るも、彼はそのまま騒いでいる。むしろわざとやっている風である。
シェリルは言うだけ無駄だと溜息を吐いて、改めて突っ伏した。
「可愛いだなんて言うの、あなたくらいよ」
あれからしばらくしない内、シェリルの様子に変化が現れた。目が据わっていると言えばいいのか、虚ろになっていると言えばいいのか。
シェリルは普段と異なり、目尻を垂らして口を尖らせていた。
ロネヴェには心当たりがあった。大ありだった。
出来心でチョコ以外のものも混ぜたのである。具体的に言うならば、とあるキノコの粉末で自白剤のようの効能がある。
メリマイという名の、ナスにも似た形の傘を持つキノコで、粉末にして摂取すると幻覚作用などを引き起こす。
脳の認識能力を下げるのが一番の効果で、それが素直な反応を示すようにさせるのだ。
酒酔いの状態にも似ているが、脳内で鈍らせる場所は異なる。このキノコの方が質の悪いものである事には間違いがない。
「私の目の前から消えたら許さないわよ」
「ほら、目の前に俺はいるよー?」
悪魔であるロネヴェからしたら、別にこのようなものを使わなくともシェリルを同様の状態にする事は可能である。使う必要の全くない代物であったが、好奇心が勝ったのだ。
つまり、ロネヴェは暇だったのである。目の前にいる死ににくい人間は格好の餌食であった。もちろん後で良くしてやるのだから不平等ではない。
と言うのがロネヴェの持論である。
普通の人間でも死なない程度の量だけ、メリマイを飲み物に混入させた。その結果がこれである。
ロネヴェは様子を観察する為に離れようとしたら、シェリルに止められた。彼女は結構束縛したがるタイプの人間である。
ロネヴェとしてはただ嬉しいだけだが、人によっては好き嫌いが分かれそうな所である。ただ、この性質がロネヴェの死後どうなるか不安があったりする。
面倒見たがり屋なアンドレアルフスや、そうは見えないが本当は面倒見の良いアンドロマリウスならば問題ない気はする。
「だめよ、あなたは私のものなんだからここにいなさい」
「はいよ、俺の女王様」
シェリルは上機嫌でロネヴェの頭を撫でている。今は何もしていない。ただ彼女が言いたい言葉を適当に話しているだけなのだろう。
意地っ張りの我が儘女だと思うかもしれないが、それが本当に可愛いのだ。自分にしか我が儘を言わないという事が、それほど気を許されているのだと分からせてくれる。
自分にだけ許された特権なのだ。ロネヴェは普段より我が儘な女王様を抱きしめながら、愉悦に浸るのだった。