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贖う者  作者: 魚野れん
第十三章 召喚術士の懐古
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ロネヴェと夜の庭

「綺麗に咲いたわね!」

 シェリルが嬉しそうにはしゃいでいる。しかしこの美しい、白い妖精のような花は食虫植物であり、現在虫を捕食中の身である。


 花びらの縁はふわふわと揺れていて可愛らしいが、虫をおびき寄せる為の武器である。シェリルはちゃんと分かっている。

 知っていても、この反応であった。


ロネヴェはそんな彼女を見守りながら、その横で草をむしっていた。夜の間しか咲かず、捕食もその時間だけというこの花は、きちんと管理していないとすぐに枯れてしまう。

 また、自分の生産エネルギーよりも捕食して消化する為のエネルギーが多くなると、これもすぐに枯れてしまう。


 シェリルはそういう植物の難しい話よりも美しい見た目を楽しむ、そんな人間だ。

 そのおかげで自分の企みもばれていないのだから、助かっている。シェリルは結構簡単だ。こちらの要望を通しやすい。いつか必ず訪れる未来を無事に迎える為の準備は整っていく。


 シェリルが一人で生きていけるように。どんな事態でも生き残れるように。その環境を維持する習慣がつくように。

 召還術の応用が得意な彼女だ。混ぜて何かを作ってみたり、そういうのも好きだ。その材料を自分で用意できるように習慣づけたいが、それはなかなかうまくいかなかった。


 しかたなく自分がこうしてせっせと草むしりをしている訳だ。自分が居なくなって、大丈夫だろうか。そういう不安はいつもロネヴェに寄り添っている。

 水やりは多少やってくれるようになったが、まだ草むしりは下手だ。うまく根っこが抜けないからすぐに生えてくる。


 いつかこれもちゃんとできるようになって欲しいが、ここら辺は代わりに誰かがやってくれる気がする。もちろん“誰か”は予想がついている。

 元々シェリルの護衛を頼んでいるアンドレアルフスか、ロネヴェを殺しに来て彼の後を継いでくれる予定のアンドロマリウスだ。

 アンドロマリウスには良い迷惑かもしれないが、あいつは約束や契約をしっかりと守ってくれる奴だ。育てられたロネヴェがそう思うのだから間違いない。


 彼の企みは、アンドレアルフスしか知らない。ロネヴェは親友のプロケルにも話してない事だった。もしかしたら気付いてるかもしれないが、今の所は見て見ぬフリである。問題は何もなかった。


 シェリルは自分の足元でロネヴェがそんな事を考えているとは思いもよらないだろう。

 現に、今は白い花よりも淡く発光するキノコに夢中だ。このキノコの名は何だろう、食べれるのかな、等と呟きながら手を伸ばしている。


 ちなみにこのキノコは安易に触れると大怪我をする。これも食虫植物の一つで、下手に触れればは皮膚が溶ける。ロネヴェは立ち上がって翼を広げた。

 大きな翼はシェリルの視線を遮る。本当は抱きしめて止めたかったロネヴェであるが、手は草の汁や土で汚れていて使えなかった。


「なぁに?」

 不思議そうに振り返るシェリルに頬を寄せる。ロネヴェの行動に笑っている彼女は楽しそうだ。


「そのキノコは皮膚を溶かすぞー

 シェリルの肌が荒れるの見たくねぇからな」

「えっ!」


 ぎょっとしたような表情を見せたかと思えば、すぐさま眉を潜めて神妙そうな顔に変わる。

 ロネヴェはわざと意地の悪い声色を出して脅しにかかる。


「こいつは何でも食べるキノコなんだ……

 溶かして吸収するんだよ。

 しかも侵食も得意だ。一度触れると大変な騒ぎになる」


 耳元でぼそぼそと呟いたが、シェリルの反応は淡白だった。期待はしていなかった。とはいえ、あまりにもの無反応さにロネヴェは複雑な気持ちになる。

 シェリルはと言えば、ロネヴェの言葉が耳に届いていたかも怪しいくらいにキノコを見つめていた。


「これ、うまく捕獲して食べられたりとかしないの?

 薬効のない、ただ危険なだけの植物は置いておきたくないわ」

「あー……」


 そうだ、シェリルはこういう女だった。ロネヴェは必死でこのキノコの生態を思い出すべく頭をひねった。

2019.8.5 誤字修正

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