表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
贖う者  作者: 魚野れん
第十三章 召喚術士の懐古
163/347

ある悪魔と女の心配事

「ちゃんと説明して出てきたんでしょうね?」


 黄金の美しい髪をもてあそびながら妖艶な美女が責めるような口調で言う。その眉間にはアンドロマリウスにも劣らぬ溝ができていた。

 垂れ目がちではあるが眼光は鋭く、瞳は黒い悪魔を睨みつけている。


「いや、だだをこねるから揉めた……」

「はぁっ!?」


 美女は身を乗り出してアンドロマリウスに掴みかかる。シェリルの美しい胸よりも大きなそれが近くまで迫るが、彼の視線は彼女の顔から動かなかった。


「知らない方が良いだろう。

 あいつが怒って塔に閉じこもっている方が安全だ」

「良くないでしょ!」


 近くで叫ばれ、あまりのうるささに彼は顔をしかめた。自分だって別にシェリルと揉め事を起こしたかったわけではない。

 “しばらく出かける”事を簡単に承諾してもらえると思っていただけだ。


「出かける、と伝えたら行くなと怒られた。

 俺が悪いわけじゃないだろう」

「ああ、あたしのお姫様が泣いてる気がするわ……」

「は?」

「何よ」


 掴みかかっていたアンドロマリウスを解放し、女は力なく椅子に座り込んだ。

「あの子はあたしのお姫様なの。悪い?」

「お前――本気か?」

 アンドロマリウスにそう聞かれれば、女はこくりと頷いた。


「本当に大切なの。

 だからあまりいじめないでちょうだい」


 ぷく、と頬を膨らませて言う彼女は恐ろしかった。今はおとなしいが、後でどうなる事かとアンドロマリウスは心の中で溜息を吐いた。




 案の定、シェリルは不機嫌だった。というよりも少し様子がおかしい。呆けていた頃ともまた違う。突然眠りこけてしまうのだ。だが眠りについている時の表情は暗くなく、穏やかだと言う。

 むしろ目が覚めている時の彼女は始終不機嫌そうにしているらしい。


 すべてアンドロマリウスの蛇から受けた報告である。一体彼女に何が起きているのか。

 気にはなるが他者からの干渉ではない事を把握している身としては、このまま様子を見るしかないと判断した。


「もう少し様子を見て、駄目そうなら一旦戻った方が良いわ」

「……だが、マリア」


 アンドロマリウスはここでやる事を優先させたかった。理由は簡単だ。後で大きな憂いになりそうな物は、早めに絶つに限る。それだけである。


「あたしの子、多分近い内に様子を見に行くと思うの。

 それで我慢したげる」


 マリアと呼ばれた女は、はあ、と溜息を吐いた。彼女も早くこんな面倒な事はやめたいのだろう。じゃらじゃらといくつもの金環を付けた腕で頭をかいた。


「さぁて、あたしもまた一肌脱いでこようかしらん」

「……気を付けろ」

「は、あんた誰に言ってるのよ」


 そう言うマリア自信ありげに豊満な胸に手を当てた。

「じゃあ、また後でね」

「ああ」

 ひらひらと彼女が腕を振りながら去っていった。しゃらん、と彼女の飾りが音を鳴らしながら遠ざかっていく。


 穏便に事を済ませる為とは言え、酷く面倒な事をしている自覚はある。慎重過ぎるのも分かっている。

 相手が相手なだけに、アンドロマリウスも神経質になっているのだ。だがこれもシェリルの為である。

 言い合いになって出ていったまま連絡を絶っているシェリルを思い、彼は早急に終わらせるべく策を練り直す事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ