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贖う者  作者: 魚野れん
第二章 魔界からの迎え
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望まぬ契約

「アンドロマリウス、これは一体どういう事!?」

 両手を鎖に縛り付けられているアンドロマリウスは、何事かと首を傾げた。シェリルは、この様子に眉を吊り上げる。


「俺に言わせれば、布一枚で男の目の前に現れるお前の方が……」

 アンドロマリウスが言い終わらない内に、シェリルが行動を起こした。巻き付けていた布をはずし、その豊満な裸体を晒したのだ。


「私と勝手に契約したでしょう!」


 彼女の身体には、二つの印が刻まれている。そのうちの一つはロネヴェの印で、もう片方は――

「先ほど、術を施しただろう。あれだ」

 アンドロマリウスは彼女の裸体をちらりと見て、興味なさそうに答える。アンドロマリウスの印で間違いないようだった。


「私はあなたと契約なんてしていない」

「俺は、お前を守らなければならない。

 従属の証だと思っておけば良いだろう」

 納得がいかないといった表情の彼女は、ひたすらアンドロマリウスを睨みつけている。

 好きでも何でもない奴の印など、邪魔なだけだと思っているのだろう。

「契約中の印があるだけで、魔界の者からの対応が変わる。

 俺の印が気に食わないのは分かるが、印があって損はない」

「嫌よ、私はロネヴェの印だけしか必要ないわ」

 彼女の頑なな態度に、アンドロマリウスはため息を吐いた。彼の腕を拘束している鎖が蛇に変化する。

 彼の腕を伝って蛇が移動すると、アンドロマリウスはシェリルの近くまで移動した。


 シェリルが握りしめている布を奪うと彼女に巻き付けた。一瞬の出来事に、彼女は動けないでいた。

「お前が狙われたとしても、俺の印があれば大抵何とかなるはずだ。

 俺を縛り付けている間、お前を守るという契約にしておいた。

 契約の内容を見れば、安易に襲いかかる悪魔はいない」


 シェリルの表情がより険悪なものに変わる。彼女の奥歯からはぎり、と歯の軋む音が漏れた。


「俺の事は、使える下僕だとでも思えば――」


「いい加減にして」

 ぎらぎらと瞳を光らせ、彼女は低い声で言った。

「あなたは、下僕でも何でもない。

 使える下僕なら、彼を返して」

「……」

 シェリルの言葉に、アンドロマリウスは口を閉じた。彼女を歪んだ笑みを浮かべる。


「できないのは知ってるのよ。

 私は、あなたなんかいらない。

 ロネヴェが良いのっ」

 シェリルが一歩下がった。

 だが、アンドロマリウスは動かない。


 彼は彼女の様子を一瞬でも逃さないとでも言うかのように、しっかりと見つめている。その瞳は冷たく、何の感情も浮かんでいない。

「――俺は、この件については謝らない」

 淡々とした言葉が、地下牢に響いた。シェリルの声よりも小さなそれは、やけにしっかりと彼女の耳に届いた。一瞬、シェリルの呼吸が止まる。


 アンドロマリウスの言葉は、シェリルの心を抉った。

 小さな傷だったが、激情に駆られている彼女に、その傷が広がらないように押さえる能力はなかった。


「私のロネヴェは、もういない!

 ロネヴェ、ロネヴェ……っああ……っ」

 水をせき止めていた堰堤が決壊して溢れ出るかのようだ。彼女の言葉から、身体から、痛ましいほどの感情が発せられた。

 シェリルはその場で膝を付き、両手で顔を覆った。


「あいつは――いや、今のお前に言う必要はないか」

 アンドロマリウスは見下ろしたまま呟くと、元の位置まで下がっていった。定位置に座り、腕を上げる。その動きに誘われるように蛇が下りて巻き付き、それらが鎖として彼を縛り付けた。

「大丈夫、だなんて嘘ついてっ

 私を一人にしないでよぉ……っ」

 アンドロマリウスは動かない。ただ、冷めた目で彼女を見つめるだけだった。

2019.6.2 一部修正

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