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贖う者  作者: 魚野れん
第十二章 砂漠の殿下 ─帰路につく─

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リリアンヌの目覚め

 アンドロマリウスの視線はリリアンヌの足飾りに向いている。終わったのではないのか、と疑問に思っていたシェリルに彼が話しかけた。

「リリアンヌの方はもう心配ないが、こちらの飾りは使い物にならない。

 無理矢理力を引っ張ったからか、ひび割れてしまった」


 リリアンヌの足飾りを外し、シェリルに渡す。なるほど、それには小さなひびが無数に走っている。透明な水晶に針状の鉱石が入っていた石であったが、無数のひびで濁っていた。

 石の一つを撫でれば、ざらついてるのが分かる。


「飾りとしても使えなくなってしまった。

 配慮が足らず、すまない」


 シェリルはそんな事を言われるとは思わず、アンドロマリウスの顔をまじまじと見つめた。どことなく余裕のない雰囲気を醸し出している彼は意外であった。

 シェリルからしてみれば、こういった物は使い捨ての消耗品である。


「私がやったら粉々になってたはずよ。

 だから気にしないで」


 そう言うと、シェリルは彼から視線をリリアンヌへと移した。彼女はまだ目覚めない。アンドロマリウスの言葉を信じるなら、もう彼女の命の危険はない。

 両手でリリアンヌの頬を挟んで覗き込む。反応はない。

 ややひんやりとした頬は、すぐにシェリルの体温で熱を帯びた。


「リリアンヌ、起きなさい」


 シェリルが声かけると、リリアンヌのまぶたがぴくりと動いた。だがまだ目は開かなかい。シェリルは右手で彼女の頬をぺちぺちと軽く打つ。不快そうに眉が歪めば、更にシェリルは続けた。


「カプリスに戻るわよ、リリアンヌ。

 アンドレに“エブロージャまでリリアンヌを連れて帰る”って言ってしまったから起きてもらわないと困るの」


 アンドレの名を聞いた途端、彼女が目を開いた。見開かれたと言っても過言ではないそのグレージュ色の瞳が懐かしい。彼女の先祖からヘイゼルだったな、とシェリルは唐突に思い出し、笑みを浮かべた。


「お寝坊さん。

 死んでなくて良かったわ」

「助けて頂きありがとうございます。

 シェリル様、髪が黒かったので驚きました。

 主はもう帰られたのですか」


 全てが終わったのだとリリアンヌは分かっているらしく、言葉遣いが敬語に戻っている。

 シェリルの無事を聞く前に、主であるアンドレアルフスを探して視線が彷徨った。彼女の心配は主だけのようである。

「アンドレはあなたを私に任せて魔界に戻ったの」

「そうですか……」


 リリアンヌは視線を落とした。彼女は分かっているのだ。彼女の人生の中で、もう二度と彼と会う事はできないのだと。

「主が戻ったという事は、あなたをお守りできたという事です。

 あの方がお戻りになるまで我等一族でシェリル様をお支えします」


 シェリルが思っているよりも背筋をぴんと伸ばしたリリアンヌの表情は明るい。割り切っているのだろう。

 敬愛する主の意思を最重要とし、それ以外においてはアンドレの一族の名に恥ずかしくないように徹するのだ。


「ありがとう。

 ところで身体の調子はどう?」

 リリアンヌは一瞬きょとんとしたが、すぐに顔を引き締め立ち上がる。シェリルから数歩離れて軽く体を動かした。優雅に手足を動かすリリアンヌを見れば、シェリルにも彼女の身体に異常がない事が分かる。


「……大丈夫そうね」

「はい」


 シェリルの声掛けで彼女は動きを止めた。従順な様子にシェリルは戸惑いながらもアンドロマリウスの方へ向き直る。彼は漆黒の悪魔に戻っていた。

「マリウス、帰りましょう」

「足りるか?」

「大丈夫」


 アンドロマリウスの問いに即答し、シェリルは両手を前に突き出した。アンドレアルフスがしたのと同じような動きに、アンドロマリウスはアンドレアルフスがしっかりとシェリルへ伝授していたと知る。

「扉が開いたらさっさと通ってね」

 そう言うシェリルの髪は、色が抜け始めていた。

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