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贖う者  作者: 魚野れん
第十一章 砂漠の殿下 ─殿下の策略─
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クリサントスの処分

「話はこいつらの報告で十分だと思うぞ。

 ほら、殿下に話してやれ」

 クリサントスに最上の礼をしたままの二人をアンドレアルフスが足でつつく。足蹴にされている事を怒るでもなく、一人の兵士が顔を上げた。もう片方は俯いて小さく縮こまっている。


 顔を上げたのは、悔しそうな表情をしていた方である。シェリルは、きっとこちらが隊長か何かでもう一人がへまをした兵士なのだろうと検討をつける。


「単刀直入に申します」

「……話せ」

「私とこの愚か者以外、エブロージャへ出兵した者は死にました」

「――そうか」


 クリサントスは長い息を吐いた。

「経緯を」

 彼がそう問えば、言いにくそうに口を開閉する。緊張しているのか、隊長はきゅっと口を噤んでから唇を舐めた。


「この者が、エブロージャの子供を手違いで殺めました。

 その代償として悪魔二人が一瞬の内に我々を壊滅に追いやったのです」


 この者、と示された男はがくがくとふるえていた。床に伏していた男は、床と一体化したいとばかりに頭を床へと押しつけている。


「何か言いたい事は?」

「……迂闊でした。

 ――申し訳、ありません……」


 術の反動で立ち上がる事すらできずに膝をついている殿下に謝罪する兵士。

 滅多に見られる事のない光景である。シェリルはそれを複雑な表情で見つめていた。


「とんでもない事をしてくれたな。

 直接下したいが、今の身では出来ぬ。

 お前達は後で処分する」

「承知いたしました」

 下がれと言われ、二人は絶望の空気を吐き出しながらのろのろと退室した。


「さて、これで自らの立ち位置はご理解いただけましたかな?」


 アンドレアルフスの声が響く。彼のよく通る声に、クリサントスの頭が上がる。

 クリサントスの表情は暗く、シェリルを手に入れる事などもはや無理であると悟っているかのようであった。


「あと一歩、私が及ばなかった。

 私はシェリルを諦め――」

「お前、シェリルに何をした」


 クリサントスの降参の声へ被せるようにしてアンドロマリウスが口を開いた。

 クリサントスはアンドレアルフスに背を向けてアンドロマリウスと向かい合う。


「何もしていないとは言わせない。

 エブロージャの方は、代償をもらったが……こちらはまだもらっていない」


 アンドロマリウスはシェリルの頭を撫で、自らの寵愛を見せつける。シェリルは身体の力を抜いたまま、アンドロマリウスの好きにさせていた。


「我が主は、お前のような者が触れて良い存在ではない」

 頭上から降り注ぐ、アンドロマリウスの冷ややかな声が心地よかった。


 シェリルはもう少しこのままでいたい気持ちであったが、アンドレアルフスとリリアンヌが気がかりであった。

 アンドレアルフスを早く魔界へ戻さなければならないし、リリアンヌの方もどうにかしないといけない。


「……エブロージャへの永久不可侵」


 シェリルの言葉に沈黙が流れた。そう長くない内に、クリサントスから承諾の言葉を貰う。シェリルが頷けば、アンドレアルフスがはぁ、と溜め息を吐いた。

「今回は未遂だからこれくらいで済んだんだ。

 分かっているな?」

「……」

 クリサントスはアンドレアルフスに言われ、ゆっくりと首を縦に振った。


「優しい俺があんたの未来を覗いてやろう」

「ぐ……」

 クリサントスの肩にアンドレアルフスがのしかかる。その重さへ耐えきれずにクリサントスの体勢が崩れ、彼の肩や頬が床についた。


「ふむ。皇になって子宝には恵まれるようだな。

 ……だが、皇太子には恵まれなかったか。

 あんたの子達は早い代替わりになりそうだ」


 未来、と言っているが実際これはアンドレアルフスからの呪いの言葉であろう。言った通りの未来になりますように、という悪魔の祝福であった。

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