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贖う者  作者: 魚野れん
第十一章 砂漠の殿下 ─殿下の策略─
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お一人様品評会 *

「それはもういない。

 代わりに二人の悪魔を侍らせているだろう」

「……」


 クリサントスはロネヴェが居なくなった事も、代わりに二人の悪魔が周りをうろついている事も把握していた。シェリルは天界の者と関わりを持っていると知った時点で、予測すべきだった。

 こんな所でロネヴェの影を見るとは思わなかったシェリルは小さく歯ぎしりする。


「あの赤い悪魔は残念だったな。

 私が代わりになってやろう。と言いたい所だが、私がお前の物になるのではなく、その逆だが」


 わざと優雅な微笑みを作り、シェリルの額に口付けた。祝福を祈るという意味の行為であったはずのそれは、シェリルにぞわりとした寒気を感じさせた。

 暴れるようにしてでも逃げたいと、シェリルは思い始めていた。そうしてどうにかなるとは思っていない。

 だが、それでもなりふり構わずこの場から逃げ出したいという気持ちは、自分に対してごまかせそうにはなかった。

「なに、大丈夫だ。

 ただいつもとは相手が違うだけだ。

 それとも人間とは初めてか?」


 ぐい、とクリサントスの手がシェリルの顎をつかむ。その手はシェリルの首へ押しつけるように動き、彼女はそのまま無理矢理ベッドへと押しつけられた。

 首を絞める動きにも似たクリサントスの行動は、シェリルの喉を傷つけた。


 上半身をベッドに沈ませて咳をするシェリルを、彼は見下ろしている。愉悦を覚えているのだろうか。シェリルを見下ろすクリサントスの瞳はぎらつきを増し、爛々と輝いている。先ほどまでさんざんな目に遭わされていたからかもしれない。

 何度も投げられた恨みだろうか。シェリルはそんなどうでも良い事を考えて気を逸らした。


 クリサントスは眺めるのをやめ、シェリルを撫で始めた。シェリルの、程良く筋肉がついた二の腕を上下に撫で、満足そうに頷く。

「引き締まっていて触り心地が良いな」

「……」


 シェリルはぎりぎりと奥歯に力を入れた。

「肌はなめらかで、張りがある。骨と皮という訳ではなく、肉でぶよついたりもしていない。

 腕だけとっても、美しい」

「……」


 好きでもない男に腕の品評をされても嬉しくない。シェリルの頭の中を、クリサントスに対する怒りや得体の知れぬ気持ち悪さ、様々な感情が入り交じっていた。

 クリサントスは彼女の様子など気にするそぶりもなく、手を握って感触を楽しんでいる。


「手は絶妙なバランスだが、やや柔らかめか。他はどうか?」


 彼はシェリルの首筋をつつ、と撫で、デコルテの形を確かめ始める。

「む。シェリル。歯を食いしばるのはやめた方が良い。

 変に力が入っていると疲れるぞ」

 その言葉にシェリルがクリサントスを睨む。彼女の反応に彼はふ、と笑った。顎を持っていた手をはずし、自由になったその手は下がっていく。


 顎を解放されたシェリルだが、なぜか起きあがる事はできなかった。おそらく下半身がベッドの外のある為に反り腰になっていて、今以上に力が入らないのだろう。

 うまく体のバランスがとれず、もぞもぞと動き出したシェリルのケルガをまさぐる。飾りについているクロマがふわふわと揺れた。

 中途半端に曲げられてつま先だけが床についているシェリルの太股が露わになる。


「均整のとれた足だな」


 クリサントスは一人で品評会を楽しんでいるようである。シェリルは思うように動かない身体を恨めしく思いながら、その視線に耐えていた。

 クリサントスはシェリルの片足を持つと、すっとまっすぐに伸ばした。彼が動かそうとすれば、彼女の身体は何の抵抗もなく動かされる。

 シェリルの意志では、まともに動かせなくなっていた。


「なだらかな、この波がすばらしい」


 ふくらはぎの事を言っているらしい。シェリルは足で思い切り彼を蹴り飛ばしたい衝動に駆られたが、全く動かなかった。ふくらはぎを頬ずりしてくる。

 きちんと手入れしているとはいえ、クリサントスの髭が当たって気持ちが悪い。ちりちりと、嫌な感触である。

「変態だわ」

「何とでも言うが良い」

 クリサントスはそう言ってシェリルの足にちゅ、ちゅと音を立てながらマーキングするかのように口付けの雨を降らせた。

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