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贖う者  作者: 魚野れん
第十一章 砂漠の殿下 ─殿下の策略─
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クリサントスに憑きし者

 あえて名前を入れる事で、クリサントスに憑いている者と区別をした。憑いている者は、単純に認識されたのが嬉しかったのだろう。

 おそらく、クリサントスの知恵の部分は憑いている者の助言である。単純な攻撃の繰り返しだけでシェリルを誘導し、ベッドのある方向へ蹴り飛ばすように指示したのもきっとそうなのだろう。

 シェリルはそう結論付けた。


「同時に契約するのは、なかなか興味深いからな。

 警戒する気持ちよりも好奇心が勝った。

 強いて言うならば、お前は悪魔を使ってこの世界の均衡を崩そうとは思っていない。

 警戒するだけ無駄だというのが、私の判断だ」


 憑いている者は認知欲があったのか、説明し始める。シェリルは天界からやってきたらしい“あれ”を警戒して完全な聞き手に回った。

 シェリルがおとなしくしている間は、何も起こらないだろうという考えのもとである。


「そういう事で、クリサントスとの意見が一致したのだ。

 クリサントスがただの人間で、お前とは寿命がかなり異なるのが問題ではあるが……」

 ふふっ、と“あれ”が含みを持たせながら笑った。シェリルは思わず眉をひそめる。


「そこは何とかなるのではないかと考えている」


 シェリルには何を意味しているのか分からなかった。分かったのは、“あれ”が楽しそうにしていて、クリサントスと利害が一致したから一緒にいるらしいという事だけである。

 何者か、知りたくない訳ではない。しかし、名を知る事で発生するであろう不都合な事を避ける為、シェリルは頭の中だけで情報を整理するしかないのであった。


 シェリルが“あれ”の憑依しているクリサントスをじっと見つめると、ふわっとした笑顔を作った。

 依り代がクリサントスなだけに、やはり可愛らしくも何とも感じない。

 それでもきっと“あれ”は好意的に見られていると思ったから、の笑みである事は感じ取った。


 天界に属する者の多くは極度の楽天家だったり、自己中心的博愛主義者であったりと、人間の感性からすれば面倒な性格を持っているとシェリルは信じていた。

 おそらく、この“あれ”もそんな一面を持っているのだろうと勝手に結論づける。


「シェリル、お前は情に厚い人間だ。

 クリサントスが、どんな形であれお前の番となれば、お前は彼を切り離せまい」

「……はい?」

 一気にシェリルの顔が不快感で歪む。シェリルは遥か昔に召喚し、一時的に契約を結んだ天使を思い出した。


 あれは用が終わり次第、丁重にお帰り頂いたが今一話が通じない相手であった。全て好意的に捉え、博愛的自己中心さで周りを巻き込み強引に事を運ぶ。

 それでは困ると伝えても、大丈夫だと返事をするばかりで、それでいて決して大丈夫ではなかった。


 何とか終わりは纏まったからよしと考えるしかなかった。それ以降、天使は今後一切召喚すまいと誓ったのだ。


「シェリル、大丈夫だ」

「それは私が決める事よ」


 シェリルが初めて“あれ”に反抗的な態度を取った。意外だといった表情で大袈裟に反応すると、今度は目映いほどの笑顔になった。

 クリサントスの顔だと、とても胡散臭い。中にいるのが天界の者だとさらに胡散臭い。シェリルの方はうんざりとした表情になった。


 “あれ”は胸元で指を合わせ、笑顔のまま続ける。

「私は分かっているのだ。

 シェリルが悪魔を解放せずにいるのはこの世界の為だと。

 お前が愛するこの世界を、より一層見つめていきやすくなる、この手段を拒むわけがない」

「…………」


 シェリルは「あぁ、これは本当に話が通じない奴だわ」と視線を逸らした。


「だからシェリル」

「!?」


 ぞわり、と駆け上がる悪寒を感じてシェリルは反射的に視線を戻した。先程までの、穏やかで明るい雰囲気はなかった。

 代わりにあったのは、獲物を捕らえた捕食者のような雰囲気である。

 シェリルは“あれ”が裏方へ下がり、元のクリサントスへと戻ったのだと気が付いた。

2018.11.17 誤字修正

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