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贖う者  作者: 魚野れん
第十一章 砂漠の殿下 ─殿下の策略─

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クリサントスの奮闘

 戦術を変えたクリサントスであったが、戦況は変わらなかった。振り子のようにシェリルとクリサントスが動く為、ゆっくりと近付いてもあまり意味がなかったのである。


 強いて言うならば、吹き飛ばされる程の反撃を受けなくなったくらいである。相変わらず近付けば転がされるという動きをクリサントスは繰り返していた。

 だが、クリサントスは自らが消耗するのも構わずに何度も挑戦する。


 シェリルは馬鹿の一つ覚えか、と淡々と彼の攻撃を捌いていた。その内一つの不安に辿りついた。なんとなく手が乾いてきたのである。

 クリサントスに比べ、まだ息切れもしていないシェリルであったが、集中力は着実に削られている。そんな中に気が付いたのが、クロマの乾燥であった。


 クロマは水分を含ませて重くしないと意味がない。水に濡れていなければ、鞭のように振ってもふわりと可愛らしく舞うだけである。

 もちろん、振るった先にしっかりと巻き付く事もない。くすぐるように肌を撫でるだけである。武器として、防具として利用するには濡れるという条件が必要なのである。

 時間が経てば、水分は蒸発する。それに加えて武術に使っている為、力が加われば絞られてあちこちへと飛び散っていく。


 普段であれば、術式が作動して常に湿った状態が保たれる。今までは乾燥を気にして戦う事などなかったのだ。

 乾燥してしまえば、ただの布切れである。シェリルは心もとなくなり、視線を漂わせた。


 もう一度テーブルに乗っている液体のどれかを使えないかとシェリルは考えたが、クリサントスの一方的な攻撃を受け流していたら移動してしまっていた。

 いつの間にかシェリルは舞台の幕近くまで移動していた。リリアンヌからも離れており、クリサントスをあしらっていただけなのに、結構動き回っていたようだ。


 シェリルが後ろを見れば、彼女の動きで生み出される風が幕を揺らしている。

 今走ってテーブルまで行こうとすれば、クリサントスに隙を見せるも同然であろう。


 ふと風を感じ、シェリルは我に返る。咄嗟にクロマから手を放して両腕を曲げて正面を覆った。シェリルが気を逸らしていた事を見逃さず、クリサントスが駆け寄っていたのだ。

 シェリルは後ろへ飛ぶ事で衝撃を和らげようと軸足に力を込める。その瞬間、クリサントスの蹴りがシェリルの腹部を襲う。

 両腕を曲げて蹴りを防御しながら、その力に逆らわずにシェリルは吹っ飛んだ。


 シェリルはクリサントスの蹴りを受けて舞台の幕を揺らし、その中へと飛ばされた。彼女は強い衝撃を覚悟して受け身をとろうとする。

 だが彼女は受け身を取る前に、柔らかな物に受け止められた。


「……?」


 シェリルがぱっと上半身を起こせば、クリサントスが蹴りを入れた姿のまま驚いた表情をしているのが見えた。当たるとは思っていなかったようである。

 驚いた様子のまま動かないクリサントスを尻目に、シェリルは背後を見た。


 シェリルを受け止めた物を確認すると、それは大きなベッドであった。煌びやかな装飾に、技巧を凝らした刺繍の立派なものである。どう考えても普通ではない。

 シェリルはぎょっとした表情をしてから、息を吐き、表情を消して体の向きを戻した。


 ちょうどクリサントスがゆっくりとこちらに歩き始めた所だった。シェリルが口を開けば、彼は彼女の言葉を聞こうと立ち止まる。

 すぐに接近できる距離ではあるが、少しだけ距離が開いている。少しだけでもシェリルにとって、冷静さを取り繕うのに役立った。


「――舞台じゃなかったの?」

「いいや。舞台ではなく、見ての通り寝台だ。

 ここは私の部屋なのだよ、シェリル」


 まさかの展開に、無表情のままシェリルは言葉を失う。シェリルの心臓は、ばくばくと音を立てて激しく動揺していたのだった。

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