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贖う者  作者: 魚野れん
第十一章 砂漠の殿下 ─殿下の策略─
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オツムの足りない殿下

 シェリルはクリサントスの話に、適当な相づちを打っていたが内心では複雑な気分であった。クリサントスの作戦、いや、思いつきは綿密なのかざっくりとしているのか判別に苦しむものだったからである。

 また、理由も単純なもので、むしろそれだけの為にどうしてここまで大規模なものとなってしまったのかも、シェリルには分からなかった。


 ちなみに第三の作戦とは、シェリルを嫁に迎える事そのものを指していた。シェリルの指に婚約指輪をはめ、結婚式を無事に執り行う所までをいう。

 クリサントスはシェリルを街からおびき出し、城へと向かわせる。ここまでは第二の作戦とかぶる部分があった。


 無事に場内で城の中へと案内できれば、この作戦は半分成功したと言っても良いとクリサントスは考えていたようである。それは全くの思い違いであったが。

 シェリルはクリサントスの交渉には全く応じなかった。街やそこの住人を人質にしてもだめだった。シェリルにしてみれば、当然の事である。

 エブロージャを守り続けるのが召喚術士であるシェリルの役目だ。街を守る為に、街を手放しては本末転倒である。


 これが、シェリルよりも強くて賢い相手であれば話は変わるのかもしれないが、それは少なくともクリサントスではない。クリサントスがシェリルよりも優れているもの、それは権力の強さだけであった。


 シェリルが承諾してくれない場合、街を破壊して居場所をなくせば良いと考えていた。そこまでしなくとも、シェリルを手籠めにできれば、諦めてついてくるだろうと考えていたという。この作戦だけは、ある意味単純な理由でどうにもうまくいっていない訳だが。


 クリサントスが考えている以上に、シェリルの精神は強い。何百年も生きていれば、それなりに耐性もできるというものだ。

 彼の揺さぶりはシェリルにはあまり効果が無い。

 そもそもシェリルを大きく揺さぶりたいのであれば、悪魔二人の身動きを取れなくしてからでなくては。


 クリサントスがエブロージャを持ち出してくるであろう事は、呼び出しの手紙が届いた時からシェリルは覚悟している。

 「ああ、やっぱりね。」彼がエブロージャの名を口にした時に彼女が思ったのはそれだった。

 さすがに、嫁という方向でクリサントスが動いていた事には驚いたが、シェリルはこれでも余裕があったのだ。


 クリサントスの話は途中で終わった。なぜならば、作戦は進行中だからだそうだ。シェリルは今の状況でもそう言える自信か前提、何か要素があるのだと感じとり、余裕のある表情はそのままに警戒心を強めた。


「でも、今のあなたは何もできそうにないわ」

「そう見えるだろうな」


 シェリルの言葉にクリサントスは素直に頷いた。逆に彼女の心の中には不信感が募る。何かを仕掛けるそぶりは見られないが、何かをするつもりではあるだろう。


 シェリルはちらりとリリアンヌを見た。彼女はシェリルに移動された時のまま、動かない。

 彼女の足首には、シェリルが贈った飾りがまだ輝きを放っていた。彼女はまだ大丈夫そうだと、シェリルは安堵の息を吐いた。


 そんなシェリルの様子をどう取ったのか、クリサントスが口を開いた。

「お前が私のものになると言えば、あのおかまもちゃんと助けてやるぞ」

「だから、リリアンヌをおかまと呼ばないでって言ってるじゃない」


 クリサントスはにやりと顔を歪める。シェリルの冷静さを欠かせたいのだろう。彼女はそう勝手に結論づけると、あえて苛ついたような表情を作った。


「……言っておくけど、私は冷静よ」


 宣言すれば、クリサントスは愉快そうな雰囲気を醸し出す。あっさりとシェリルの態度に、言葉に騙された。


 シェリルはクリサントスのような頭のよろしくない男が、どうしてシェリル達をここまで困惑させる事ができたのだろうかと疑問に思う。

 こんなに頭が悪いのだ。既にこの世界から消えていても仕方がないのではないかとすら思っていたくらいである。

 きっと、お付きの人が優秀なのだ。シェリルはそうでなければ納得できそうになかった。

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