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贖う者  作者: 魚野れん
第十一章 砂漠の殿下 ─殿下の策略─
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殿下の作戦

 シェリルの内心など気が付かぬクリサントスは、続きを語り出している。

 シェリルを迎え入れる準備は大がかりなものであった為、隠す事はできない。城に出入りする事の可能な貴族や上級商人には、クリサントスが何をしているか、すぐに分かっただろう。


 クリサントスはこれを作戦の一つ目とした。クリサントスが誰かを迎えようとしている、という情報は瞬く間に広がった。

 どこぞやの姫を娶る事が決まったのか、結婚に向けて話し合いの場を設けようとしているのか、と様々な憶測が飛び交ったのである。


 クリサントスが誰かを選んだという噂となって、城から出て行ったそれは、勝手に国中を走り回った。

 クリサントスは噂が広がりきった頃、クリサントスは新たな一手を投じた。

 エブロージャへの派兵である。


 いよいよシェリルを呼び出す事が現実味を帯びてきた。それに比例するように、噂も真実味を帯びてくる。クリサントスは噂について否定したかったのも大きい。

 そんな大きな動きにひっそりと寄り添うように小さな動きが見え始めた。

 クリサントスの最初の狙いである、彼を狙う貴族が尻尾を見せ始めたのだ。


 ここでクリサントスの二つ目の作戦である。クリサントスはあえて派遣する兵に、シェリルを迎えるようにとは指示を出さなかった。

 邪魔な貴族の意識をシェリルに集中させる為だ。また、三つ目の作戦にも関わってくるが、シェリルをうまく操る為の保険でもあった。


 シェリル自らこの城へ向かう事が、この作戦の肝である。なぜなら、彼女には襲撃される可能性も含め、襲撃される本当の理由を知られたくないからだった。

 知られれば、街に戻ってしまうかもしれない。

 呼び出される理由が分からないからこそ、シェリルは自ら街を出るのだ。


 クリサントスは先祖からシェリルの性格などの情報を得る機会があった。

 彼女はエブロージャの召喚術士であり、この国の召喚術士ではない。召喚術士には、“何でも屋”の側面と“守護者”の側面があると言われている。

 それ故に、必要以外で所属している土地から離れる事は好まないのだという。シェリルもその例に漏れず、あまり街の外には出なかった。


 使役する悪魔を変えた途端、街から一歩も出なくなったとさえ聞いた。

 そんな引き篭もった状態の人間が素直にこちらの願いを聞き届けてくれる自信は、さすがのクリサントスにもなかったのである。


 クリサントスの兵と共に過ごせば、長旅の間にシェリルを呼びつける本当の理由が耳に入る可能性が高い。それでなくとも兵はシェリルをクリサントスの妻になる人間として扱うだろう。

 耳に入らなくとも、勘づかれてしまう要因は多々ある。そうなれば、彼女は怒って街へ帰ってしまう。それくらいはクリサントスも分かっていた。


 クリサントスは、自分の目的に気が付かれぬように配慮し、シェリルを街からおびき出す事に成功した。おびき出された彼女は、理由も分からずに貴族の操る刺客に襲われる事となる。

 クリサントスを狙っていた貴族の目はシェリルへと移動し、一枚も二枚も上手なシェリル達によって退けられた。


 シェリル達は疲弊して、クリサントスの事よりも刺客へと意識が移る。ここまでくると、シェリル達の気持ちもクリサントスの思惑からクリサントスのいる城へ入る事にシフトする。

 どんな噂を聞こうとも、カリスへ向かう邪魔なものとしてしか認識しなくなるのだ。


 シェリルは彼の話に、確かにその通りだったと心の中で同意した。最初はクリサントスの目的ばかり気にしていたが、刺客に襲われてからは“いかにそれから逃げ切るか”にばかり気を取られていた。

 まんまとクリサントスの手に引っかかったのである。

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