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贖う者  作者: 魚野れん
第十一章 砂漠の殿下 ─殿下の策略─
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クリサントスの話

 シェリルはクリサントスを見下ろしていた。迷ったのである。

 目を覚ましたクリサントスの第一声が「少し話をしないか」であったからだ。目を覚ました途端に暴れるか怒鳴るかすると思っていたシェリルは、冷静な様子の彼に動揺したのだ。


「……私の都合を知ってもらえば、気が変わるかもしれぬ」

 指輪の数も少ない今、時間稼ぎに話し相手をするのも手か。シェリルはそう結論付けた。


「良いでしょう。

 で?」


 シェリルはクリサントスを床に転がしたまま、椅子に腰かけ足を組んだ。テーブルに肩肘をつき、体重を寄せる。尊大な態度である。

 クリサントスは彼女がわざとそんな態度をとっているのを理解しているらしく、一瞬目つきが鋭くなるも、目を閉じて冷静さを保った。


「俺は殿下だ。皇位継承第一位だ。

 だが、それを変えようとする人間がいた」

「権威も落ちたわね」

「なんとでも言え。長い間上が変わらなければ、反感を持つ者が現れるのは必然だ」


 彼は忌々しそうにしていたが、シェリルはそれを見ても反応しなかった。

「簡単に言えば、俺は狙われている事に気が付き、対処した。

 ついでにお前も欲しかったから、巻き込んだ」


「さらっとまとめないで話しなさいよ」

 簡略にまとめたクリサントスにシェリルは即座につっこんだ。

「私、それのせいで迷惑を被ったの。

 あなたは説明する義務があるわ」

 シェリルの主張は最もだった。




 クリサントスはシェリルに視線を向けたまま、語り出した。

「俺の一族の姫が輿入りした貴族が、皇族の座を狙っている。

 そんな情報を仕入れたが、輿入りした貴族は過去に遡れば沢山あるわけだ。

 その中でいくつか的を絞ってみた所までは良かった」


 クリサントスは候補となった貴族を炙り出しにかかった。だが、なかなか尻尾を掴む事ができない。相手もこちらを警戒して慎重になっているのだろう。

 襲撃の計画があると予想しているクリサントス側は、いつもよりも警戒してみせたり、逆に無防備にも近い状況を作ってみせたりと襲撃しやすいように揺さぶってもみた。パーティ等を企画し、様々な人間を経由して刺激もした。


 だが、無反応だった。恐らくクリサントスの部下が能力不足だったのだろう、というのがシェリルの感想である。

 そもそもである。相手がクリサントスを殺めるのではなく、失脚や謀で間接的に玉座への道から引きずり落とし、最終的に再起不能とするのが目的かもしれないではないか。

 殺しに来なかった、という事は企みが進行中の可能性だってある。だが、クリサントスはそうは考えていなかったようである。


 痺れを切らしたクリサントスは、違う視点で考え始めた。ある意味では機転が利いたのか、野生の勘が働いたのか。

 シェリルを使う事を思いついたのであった。


 まずはシェリルを呼び出す為の準備である。折角呼び出すのだから、嫁にしたい。彼女を娶れば悪魔二人も付いてくるし、自らの権力を大きくする事ができる。

 何より、先祖代々彼女の美しさは語り継がれており、どの代で彼女を手に入れられるかを考える事が、皇族内における秘密の楽しみとなっているくらいである。

 自分の代で手に入れられたならば、どれ程に名誉な事か。そう考えてしまうのも仕方がないのかもしれない。


 ここで一度、シェリルは心の中でクリサントスを馬鹿な男だと笑った。どんな事をしたって、私を手に入れる事はできないのに、と笑ったのだ。それはシェリルの強がりではなく、心の奥にある暗い気持ちからであった。

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