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贖う者  作者: 魚野れん
第二章 魔界からの迎え
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あっけない結末

 そこからはあっけなかった。

 アンドロマリウスが強制的に男を悪魔の召還地点まで送り返すと、今度は悪魔自身がシェリルの家にやってきたのだ。

 悪魔はシェリルに襲いかかる訳でもなく、アンドロマリウスと話をしたいと言う。


 そしてシェリル立ち会いのもと、アンドロマリウスと悪魔は会話を始めた。

「アンドロマリウス様、なぜあれを防がれたのですか」

 悪魔は思ったよりも精錬された存在のようだ。言葉遣いも丁寧で、アンドロマリウスに対して敬意を払っている。

 更に、挨拶をする際にはシェリルにもお辞儀をするといった不可思議な行動までしてみせた。

 シェリルの思っていた実行犯とは全く正反対だ。実行犯としてこちらに召還されたという事は、きっと下っ端だろうと踏んでいた。


 だからこそ、実行する能力があるだけの……下級悪魔を想像していた。だが、この悪魔は少なくとも中級以上といった雰囲気を持っている。


 シェリルはじっとし、会話を注意深く聞く姿勢を示した。


「俺にも都合というものがある」

「左様でございますか」

 悪魔社会がどのような構造をしているかなど、シェリルは知らない。だが、このやりとりが普通の悪魔のものではないだろう事は感じた。

 お互いに淡々としている為、読みにくい。


 シェリルの知っている悪魔とは、感情が乏しいようには見えなかった。もっと、感情的で制御のできない者が多かったという認識の方が強い。


 この悪魔はアンドロマリウスやロネヴェ-彼の場合は喜怒哀楽が激しかったが、ある意味精神的な制御は完璧だった-と同類で、きちんと制御できるタイプのようだ。


「俺はロネヴェの代わりだ。

 お前等が困ろうが、俺はこの女を守る。

 だが、ロネヴェの二の舞にはなりたくない」

「……左様でございますか」

 シェリルは不思議に思った。この悪魔は、深く理由を聞こうとしない。なぜ、どうしてと強く聞けばいいのに、しなかった。

 ただ、左様でございますかと頷くだけだ。

 そもそもこの二人、言葉数が少ない。


 シェリルの想像でしかないが、アンドロマリウスの行動に心当たりがあるのかもしれない。つまりは、魔界で親しい間柄であると考えられる。

 だが、全くシェリルに対して敵意を露わそうとしないのが分からない。


 悪魔にとって、シェリルは大切な仲間を奪った人間だ。恨まれない訳がない。


「俺は……責任を取った。

 しばらく隠れていても問題はあるまい」

「確かに、これまで職務をこなす姿は大多数の者々の尊敬を集めております。

 故に我々は心配し、このような手段を講じたのでございます」


 シェリルはこの悪魔がただの下っ端ではない事に気が付いた。少なくとも指示されて実行するだけの下っ端ではない。

 どうりで下っ端の割には動きが精錬されていたはずだ。この悪魔は中級どころか上級で、魔界では中堅以上の位を持っているのかもしれない。

 言葉数は少ないが、それはシェリルに情報を与えないようにするといった目論見でもあるのだろう。


 侮れない。シェリルは気を引き締め直した。


「ろくに休みも取っていなかったからな。

 今回の件については、休暇中だとでも思ってくれると助かる」

「これまでのアンドロマリウス様の仕事ぶりを考慮して、そのように上へ進言してみましょう」

 軽く礼をして姿を消した。

 シェリルは、あの悪魔が「一緒に帰りましょう」と誘うと考えていた。

 シェリルの読みはどんどんはずれ、とうとう悪魔は一人で帰ってしまった。「お邪魔しました。それでは失礼いたします」と言われて、頷いてしまったらそのまま帰られた。


 なんともあっけない。拍子抜けである。


 複雑な気持ちでシェリルが動かないでいると、アンドロマリウスが近付いてきた。その気配に顔を上げれば、彼は真剣な表情で口を開いた。

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