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贖う者  作者: 魚野れん
第十一章 砂漠の殿下 ─殿下の策略─
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人質と挑発

 アンドロマリウスの変わらぬ表情に、男は溜息を吐いた。

「しらを切るか。

 連れてきてやろう」

 彼が顎をくい、と動かせば部下が背を向け後方へと走り出した。アンドロマリウスと男はその場から動かず互いを見つめていた。


 ふと、空気が動いた。アンドロマリウスはそれが何なのか、すぐに気付く。虚空に金糸が見えた。アンドレアルフスの毛髪である。

「もう一人悪魔がいたのか」

 アンドレアルフスは返事をせずに、アンドロマリウスの耳元にささやいた。


「街の人間が何人か、向こうのお世話になっているかもしれない」


 一瞬のうちにアンドロマリウスの眉に深いしわが刻まれ、アンドレアルフスは彼から圧倒的な力の噴出を感じ取った。シェリルからこの街の事を任されたのだ。

 任されて早々のミスである。

「丁度今、それらしい事をほのめかされた所だ」

「……生きているようで何より、かな」


 アンドレアルフスは、アンドロマリウスにしなだれかかるように彼の肩を抱いた。

 彼を使って力の消耗を押さえると同時に、こちらが余裕である様子を見せつけようという事であろう。


「非力なのに無理するからこうなるんだ」

「――俺達が不在だったからだろう」

「……分かってるさ、それくらい」


 真横にあるアンドレアルフスの顔色は殊の外白かった。元々白磁のような透明感のある肌ではあったが、今では漂白された薄い紙のようである。

 アンドロマリウスは、自分を除いた味方が極限の状態にきている事を把握した。

 早々に何とかしなければ、全て取り返しのつかない事になってしまう。


「連れてきたぞ。

 これらに見覚えはないのか?」


 アンドロマリウスが考えに耽っていると、男の声が割り込んだ。アンドレアルフスが言っていた街の人間と思われる数人がこちらにやってきたらしい。

「見覚えはあるな。この街の住人だ。

 どうしてそちらに?」

 アンドレアルフスが即答し、とぼけた。アンドロマリウスは目を凝らして彼らを見つめる。


 彼らは隠れていた魔導騎士団の索敵用結界に引っかかったようだ。

 シェリルは街の住人に対して過保護すぎたな、とアンドロマリウスは心の中でぼやいた。ぼやいても仕方のない事だが、どこかでぼやかずにはいられなかった。

「こちらに向けて歩いてきたから保護してやったのだ。

 日が暮れてから砂漠を彷徨いに出てくるなんて無謀だからな」


 彼はアンドロマリウスを試すかのような、小馬鹿にした視線を送ってきた。

 先ほどアンドロマリウスに言った事と異なる言い回しは、彼を挑発しているような風ですらある。挑発に乗らず、冷めた様子で鼻を鳴らしたアンドロマリウスの隣は、敢えて挑発し返した。


「俺達はこいつらの行動なんか知らないぜ。

 ついさっきまでカリスに居たんだ」


 横目でアンドレアルフスを見れば、愉しそうに歪められたアンドレアルフスの口元が見える。彼の挑発に向こうがどう乗るか。複数の先が視えたが、どちらに傾くかは分からない。

 アンドロマリウスは隊長の動きをを注視した。


「街の人間に攻撃を悟られて、偵察されるなんて……情報操作がなってないんじゃない?

 情報管理ができないって致命的だぞ」


 アンドレアルフスの分かり切った挑発に乗るつもりはないらしい。隊長は無言でそれに応じた。

「あぁ、何事もなかったからおびき出しに成功したって事になったのか。

 都合のいいように事実を歪めてしまうような人間を部下するなんて、クリサントスの奴もまぬけなおと――」

「ふざけるな!」

「殿下をばかにするなっ!!」


 挑発に乗ったのは、隊長ではなく部下だった。いまいち統率しきれていなかったのか、それだけ殿下を敬愛しているのか、そこをはかる事はできなかった。

 アンドロマリウスは待機している千以上の兵達へと視線を移した。ある程度の距離があるとはいえ、力の及ばない場所ではない。それを軽く確認し、騒ぎ始めた男達を見つめた。


 隊長は手で制したが、部下の瞳は怒りでぎらついている。そんな彼らの火に油を注いだのは意外な人物だった。

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