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贖う者  作者: 魚野れん
第十一章 砂漠の殿下 ─殿下の策略─
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動き出すエブロージャ

 アンドレアルフスの光に気づいた兵士達のざわつきを感じる二人は、動かずに彼らがやってくるのを待った。下手に刺激して暴発しても面倒だからである。

 街に何か仕掛けられている可能性がないとは言い切れない。アンドレアルフスはそれを先に索敵しようと考えたが、すぐに止めた。

 自分がここにいられる時間が減るだけで、何も良い事はない。


 それに、アンドロマリウスの方がそういった事は上手だ。アンドロマリウスという核を手放した以上、その余力のような事は出来ても現在の持ち主の能力を越えられるわけがなかった。

「マリウス、街は――」

「特には感じない」

 アンドロマリウスは視線を兵のいる方向へ向けたまま即答した。考える事は同じだったというわけである。


「遅いな」

「クリサントスは、手紙に二千の兵と書いていた。

 事実、そうであるならば動きは鈍いだろう」


 アンドレアルフスの苛つきは分からなくはない。だが、アンドロマリウスは彼よりも冷静だった。

 眼光は厳しいものの、その瞳は冷ややかで落ち着いている。時折アンドロマリウスが翼をはためかせる音が響く。風は殆どなく、クリサントスの兵と悪魔二人が対峙している事以外、穏やかな夜だった。


 しばらくすると、クリサントスの兵に動きがあった。横に広く広がっている内の中心、そこから一小隊が前に進み始めたのである。

「そうら、来たぞ」

 アンドレアルフスが呟いた。相変わらず二人は空に浮いたままじっとしている。

 小隊はヒポカに乗った隊長らしき人間を先頭にした歩兵集団であった。


 今回の兵は騎士団から構成されているわけではないのだろうか。それとも機動力のある隊は別の所にでも隠れているのだろうか。アンドレアルフスはこの世界の圧力に耐えながら目を凝らした。

 騎馬隊は居なかった。代わりに隠れていたのは魔導騎士団の小隊であった。恐らくシェリルによる街を守る結界を気にしての事だろう。


「マリウス、ちょっと席を外す。

 部下に確認したい事ができた」

「分かった」


 光球をアンドロマリウスに渡し、アンドレアルフスは闇へと溶け込んだ。行き先は商館である。

 商館に戻ると、一人の少年が待っていた。リリアンヌの弟である。


「お帰りなさいませ、主様。

 早速で申し訳ありませんが、この街は宣戦布告されています。

 シェリル様ご不在の為、力のある人間でこれから奇襲をかけようという話になっています」


 声変わりはまだなのか、済んだ声色で淡々と告げる。アンドレアルフスは彼の頭を優しく撫でた。少年は嬉しそうに頬を赤らめる。


「ありがとう、リアン。

 奇襲組がどこに集まっているかは知っているか?」

「はい。

 正門から堂々と行けば奇襲にならないので、トマト畑の陰に。

 案内します」


 主の返事を待たずに踵を返す。リアンは緊急度と礼儀をきちんとはかって行動できるようだ。足音も小さく動きも機敏、中々に優秀な少年である。

 少年の後に続いてトマト畑へと足を踏み入れたアンドレアルフスは、思った以上に混乱している事態に目を見開いた。

「……多くないか?」

「いえ、元々こんな人数ではなかったはずです」


 三桁は越えているだろう住民達がひしめき合っている。それも、皆様子がおかしい。奇襲をかける為に集合しているのならば、しんと静まりかえり、緊張感で空気がピント張りつめているはずだ。


 今の彼らは混乱というよりもパニック、と言っても過言ではなかった。

「何があった」

 アンドレアルフスの姿を認めた人々が彼を取り囲んだ。焦り、恐怖、様々な感情がアンドレアルフスを襲う。

「召喚術士様の代わりに、悪魔と共に戻ってきた所だ。

 簡潔に説明してほしい」

 彼らはそれぞれ顔を見合わせると、おずおずと口を開いた。

2019.7.28 誤字修正

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