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贖う者  作者: 魚野れん
第十一章 砂漠の殿下 ─殿下の策略─
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二手に分かれるという意味

「お前、私を拒絶するか!」

「するわよ。だって、私の好みじゃないもの」

 先ほどの余裕めいた笑みは消え、怒りの声を上げた。シェリルはそれを機と読み、親石へと手を伸ばした。

「これは預からせてもらうわ。

 即攻撃なんて事になったら困るから」

 石をアンドロマリウスへ渡す。彼は受け取るや否や、懐へとしまい込んだ。


 クリサントスが勢いよく立ち上がり、彼に抱き寄せられていたリリアンヌは床へと倒れた。シェリルはそれを視界の端でとらえたが、無反応で過ごす。アンドロマリウスだけでなく、アンドレアルフスも同様だった。

 彼女の大切な街、そしてその住人を盾に取ったが思うように事が運ばない。今まで街で召喚術士として貢献してきたならば、それを守る為に、この提案に乗るはずだ。


 そう考えてきたクリサントスの読みが大きく外れたのである。

「石を手に入れたところで、間に合いはせぬ!」

「さあ、どうかしらねっ」

 シェリルは指輪をクリサントスへ投げた。


「マリウス、街をお願い。

 私はクリサントスの足止めをしてるわ」

 歯を食いしばってシェリルを睨んだまま動かなくなったクリサントスから目を離し、シェリルがアンドロマリウスへと声をかけた。

「……分かった。

 行くぞ、アンドレ」

「……」

 倒れたままのリリアンヌを残し、二人は部屋から出て行った。


 シェリルはそれを見届けると、リリアンヌとクリサントスの方へ歩き出す。リリアンヌを抱えようとした時、クリサントスへの術が解けた。

「効きにくいわね、あなた」

 小さく愚痴り、シェリルはクリサントスへ触れて動きを止まらせた。

 彼女の指に嵌っていた指輪の一つが崩れ落ちる。指輪は残り八個だ。それには気にせず彼女はリリアンヌを抱え、壁際へと引きずっていった。




 廊下を静かに走るアンドレアルフスを、アンドロマリウスが静止した。

「おい、一体どうやって行くつもりだ」

「飛ぶ」

 アンドロマリウスの答えに彼は溜息を吐いた。一番簡単で早い移動方法は、他の空間を使って道を短縮させる事である。だが、シェリルの呪いのせいでアンドロマリウスには制約があった。


 他の世界へ移動できないのだった。そう、この世界から出られないという事は、空間を切り貼りする事が不可能だという事である。

 それゆえにアンドロマリウスの移動手段は人間と同様のものか、自らの翼を使って飛ぶ事くらいしか、選択肢がないのだ。


 アンドロマリウスは今すぐにでも飛び立ちたいといわんばかりに、漆黒の翼を大きく広げた。

「無理だろ」

「だからこそ、一秒でも早く行きたいんだ。

 シェリルが本気で俺を信頼した。

 俺はそれに応えねば」

 アンドロマリウスの気は確かなのか。会話中に突然飛び立つ事のないよう、アンドレアルフスは回り込んだ。


「馬鹿言うな。

 あいつがどうなっても良いのか!」

「そんな事は思っていない」


 アンドレアルフスが首を横に振り、彼を睨みつける。

「シェリルの持っている〝お守り”全部使ってどれくらいの時間が稼げると思ってるんだ。

 殿下も馬鹿じゃない。あれも対策代わりに着飾ってただろ!」

 アンドロマリウスは彼から視線を逸らした。アンドロマリウスもそれは十分分かっているようだ。


「そこから考えれば、お前が飛んで街を守るまでに〝お守り”を使い果たしちまう。

 最後の手段は体術だけだ。

 しかもそれはきっと通用しきれないから、負ける」


 アンドレアルフスの読みは正しいだろう。そして、シェリルもそれを覚悟の上で発言したのだろう。月明りに照らされ、風に揺れるアンドレアルフスの金糸がさりげなく煌いた。

「あんたは、奇麗なシェリルが屈服する様を見たいのか?

 俺は嫌だね」

 アンドロマリウスが俯いた。

「だが……俺は、その思いに報いねば…………価値がないも同然だ」

 真面目一辺倒のアンドロマリウスらしい言葉であった。


「俺を使えよ。

 使える手段は使えって俺は教えたはずなんだけどなぁ」

 そう言ってアンドレアルフスは苦笑した。

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