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贖う者  作者: 魚野れん
第十一章 砂漠の殿下 ─殿下の策略─
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親子石

 部屋に戻った二人は、アンドロマリウスにクリサントスが指示する為に使っている通信手段を探り、それを奪うという案について話した。

 話を聞いたアンドロマリウスは素直に頷き、いつの間にか用意されていた飲み物に口付ける。二口ほど含み、喉を潤した彼は何ともない様子で口を開いた。


「これから殿下が夕食を振る舞ってくださるそうだ。

 丁度良い機会になるだろう」

 シェリルとアンドレアルフスは内心で首を傾げたが、話が進むのならそれに越した事はないと気にしない事にしたのだった。




 執事の案内で広間へと移動すると、そこには着飾ったリリアンヌとクリサントスがいた。広間は少し変わった造りになっている。奥には幕の下がった低い舞台のような場所がある。クリサントスが踊り子を呼んで踊らせるための場所であろうか。

 その手前に大きなテーブルが置かれ、人数分の椅子があった。上座にはもちろんクリサントスが座っている。その隣に座っているのはリリアンヌだ。


 リリアンヌの方はやや気怠げな雰囲気があるが、クリサントスの方は至って普通であった。

 強いて言うならば、少し不機嫌そうである。


「アンドレアルフス、私を謀ったな」

「私は、活きの良い変わり種をお持ちした次第ですが、お気になりませんで?」


 いかにも人の良さそうな笑みで首を傾げるアンドレアルフスに、クリサントスは小さく舌打ちをした。

「まあ良い。

 せっかくだ。食事を振る舞ってやる」

「ありがたき幸せにございます」

 三者三様にシェリル達はそれぞれ礼を言ってからクリサントスとリリアンヌの向かい側に着席する。クリサントスの隣にいるリリアンヌは無言のままだった。


「して、シェリル」

「……はい」


 ひよこ豆のスープを飲んでいたシェリルは手を止めた。姿勢を正してスプーンを置く。

「結論は出たか」

「私が拒否したって、街は何も変わらない。

 実はそうなのでしょう?」

 彼女はゆっくりと、小馬鹿にした雰囲気で言った。クリサントスは怒るどころか、にやりと笑う。アンドレアルフスは片眉を上げ、アンドロマリウスは眉間にしわを寄せた。


「実はな……

 既に指示は出しているのだ」

「到着日も分からないのに?」


 その言葉を聞いたクリサントスは楽しそうに笑い始めた。リリアンヌは食事に手を付けていない。先ほどから全く動いていないかのようだ。

「親子石がその秘密よ。

 親石を特定の色に変えると他の石も色が変わるという面白い物があってな。

 この子供石の色の変化で我が兵は動くのだ」


 クリサントスは楽しそうに説明しだした。指示が出し終わっているからこその余裕だろうか。

「私の指示は、夜明けになったら“エブロージャを陥落させる事”だ。

 私の変更指示が来ない限り、お前達の住む街は夜明けになくなる訳だ」


  クリサントスがおもむろに石をテーブルの上に置く。子供石を作るために割ったのか、この親石は欠けていた。

 シェリルは親子石を知っていたが、実際に見るのは初めてである。ただの石に見えるそれをシェリルはまじまじと見つめた。

 親子石とは、親石と子供石で構成されるが、元は一つの石である。大きな石である親石を砕き、小石を作る。これが子供石と呼ばれるのだ。

 影響力の大きな方に魔力を加えると、その量によって色が変化する。親石の変化した色に、影響力の低い子供石が感化されて色が変わるらしい。かなり変わった石で、流通していないのだ。


「この色がとある色に変われば中止、別の色になったら即実行と命令してある。

 余計な事はしない方がお前達の為かもな」


 クリサントスが本当の事を言っているとは限らない。しかし、むやみに手出しをするのはリスクが高い。言われなくとも触りもしないわ、とシェリルは心の中で悪態をついた。

 実際に手に取っても、人間相手に指示を出しているのだ。石自体に術式が組み込まれているのならば解読できるだろうが、その仕組みの外にあるもの相手では把握できない。

 さすがに無謀である。


「言われなくとも分かっております。

 伊達に何百年も生きているわけではありませんわ」

 リリアンヌの様子も気にならない訳ではない。だが、生きているなら問題ない。

 シェリルはクリサントスと揉め事を起こす覚悟で彼を睨みつけたのだった。

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