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贖う者  作者: 魚野れん
第十一章 砂漠の殿下 ─殿下の策略─
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バルコニーにて

 良い案が浮かばぬまま、時間が過ぎていく。派手な色合いで構成されている部屋のせいか、リリアンヌが心配だからか、どうにも落ち着かない。

 シェリルは強行突破ばかり提案するアンドロマリウスに辟易していたし、リリアンヌの事ばかり心配しているアンドレアルフスにも困っていた。

「街の危機なのよ?」

「シェリルの危機でもある。

 あいつに従ったら何をされるか分からん」


 アンドロマリウスは何よりもシェリルの安全を気にしていた。シェリルさえ無事なら他はどうでも良いのだと思っているようにすら感じる。

 いつも以上にシェリルを優先させようとするアンドロマリウスに、シェリルは心の中で首を傾げた。


 溜息を吐いて、辺りを見回せば原色が目に入ってくる。きらびやかではあるが、圧迫感がある。この空間に耐えきれず、シェリルはバルコニーへと移動した。

 シェリルの後をついてきたのは、意外にもアンドレアルフスだった。

 彼はまっすぐと彼女を見ている。美しい翡翠の瞳が夕日を得て鮮やかに燃え上がっていた。


「一度、リリアンヌの事は諦める。

 今は あんたの事を考えるべきだった。

 すまない」

「良いのよ、別に。私だって、リリアンヌの事を心配していない訳じゃないし」


 もう日が暮れようとしている。夕日に照らされ橙に染まった髪の毛がそよ風で広がった。まとめていない部分だけがやわらかく揺れ、飾り付けた宝石が輝く。

 さながら夕暮れに現れた精霊のようである。彼女は穏やかに微笑むと、バルコニーの向こう側へ広がる街を眺めた。


「殿下の相手をするしかないから私は動けない。

 殿下のふりして攻撃中止を命じるのは?」

「多分無理だ」

 アンドレアルフスも街を眺めている。心なしか厳しい表情をしているようにも見えた。

「あれは多分専用の通信手段を使っているはずだ。

 俺たちはあいつを完全に打ち負かさないと駄目だ」

 クリサントスを打ち負かす、それがどれほど面倒でやりにくいのか、シェリルはもちろんアンドレアルフスも分かっていた。


「私が、クリサントスと直接対峙して時間を稼ぐ……というのはどう?」

「だめだ。絶対負けるぞ」

「……」


 アンドレアルフスの即答に、シェリルはしゃがみこんだ。恨めしそうにアンドレアルフスを見上げる。彼は無表情だった。

 無表情の彫刻に、夕闇の光がさして不安定な色を創り出している。黄金に輝く髪は、闇色を含んで魔の雰囲気を増幅させた。


「それに……どんなに急いで飛んだって、街まで遠いんだ。

 移動に時間がかかりすぎる」

 シェリルの背を、ざわざわと何かが撫でた。シェリルが耐えるように歯を食いしばるとアンドレアルフスが困ったように笑みを作る。


「わりぃ、ちょっと感情が高まった。

 今はあんたと街の両方を何事もなく助ける事だけ、冷静に考えなきゃらないのにな」


 アンドレアルフスはふぅ、と息を吐いてシェリルの隣にしゃがむ。彼女を抱き寄せ、空いている手で頭を軽く撫でた。

「一番良いのは、奴を納得させる事だ。

 だが、納得する前に憤慨して暴走する可能性が高い。

 そこで、あえて暴走させて冷静さを失わせてしまうのも手かと思う……」

「暴走させたらどうするの?」

「通信手段を奪って街に戻る。ただそれだけさ」


 通信手段が何か、それを知ってからでないと不可能である。逆に、それさえ分かれば簡単に実行できる。シェリルは静かに喉を鳴らした。

「これだけの距離があるんだ。

 普通に移動するだけならマリウスが一番早い」

「空を移動してもらえば、という事ね」

 アンドレアルフスは頷いた。シェリルを軽く抱きしめるとそのまま立ち上がる。シェリルも一緒に立ち上がった。乾いた風が二人を包む。

 肌寒ささえ感じる風に、シェリルは既に夜の帳が下りている事に気が付いた。


「大分暗くなったな。身体が冷える前に中に戻ろう」

 背を押され、シェリルはアンドレアルフスと共に部屋へと戻ったのだった。

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