長い待ち時間
身支度を整えた四人は城門の前へと立っている。門の両脇には兵士が。また、城壁の上にも見回りの兵士達が四人を見つめている。
シェリルの隣にはアンドロマリウスではなく、赤を基調とした派手な色合いのアンドレアルフスが並んでいた。
アンドロマリウスはシェリルの後ろ、リリアンヌはアンドレアルフスの後ろにそれぞれついている。
「エブロージャが召還術士、シェリルである」
「エブロージャの商館が主、アンドレアルフスである」
シェリルの透き通るような声と、アンドレアルフスの艶のある声が響いた。一呼吸おいて、シェリルが口上を続ける。
「共に、カリスが皇子、クリサントス様よりご招待いただき参上した次第」
シェリルの挨拶が終わると、少しも経たぬ内に城門が開いた。四人はそれぞれ顔を見合わせ一歩踏み出した。
城門をくぐれば、執事の一人が案内に現れた。その後に続いて応接室へと移動する。鮮やかな色彩がこの城の特徴であるが、この部屋はまた一段と派手である。
原色に近い色が組み合わさり、様々な模様を描いている。家具を暗めの色合いで統一しているからか、派手さはあるものの重厚な雰囲気を保っていた。
「……相変わらず派手ね」
ソファーに沈み込んだシェリルがややうんざりとした様子で呟いた。アンドレアルフスがその言葉に頭を縦に振る。
アンドロマリウスやリリアンヌはこの城に入るのは初めてである。二人は辺りを見回すだけだ。
「ま、何代にも渡って好みが変わんねぇってのは……すげぇよなぁ」
この城を知る二人は、ただつまらなそうにクリサントスの登場を待っている。密室はすぐに解かれた。だが、それは執事が飲み物を持ってきたからだった。
扉の開く音に背筋を伸ばした四人は、また密室へと戻った途端に脱力した。
「しばらくここに現れるつもりはないのでは?」
リリアンヌがおもむろに切り出した。最初は物珍しげに辺りを見ていたリリアンヌであったが、さすがに飽きたようだ。
「……焦らす事によって自らの優位性を確保する、という考えもあるな」
「関係ないわよ。
少し話をしたら帰るつもりだし」
シェリルがきっぱりと言うと、アンドロマリウスは押し黙った。この召喚術士が惑う言葉など滅多にないのだろう。
今この瞬間、突然クリサントスが現れて、何かをしでかしても動じないのかもしれない。
アンドロマリウスにそう思わせる程、強い言い切り方である。押し切られたアンドロマリウスを、アンドレアルフスがくすりと笑う。それに気が付いたアンドロマリウスが、彼をじろりと睨んだ。だがそれは余計笑いを誘うだけであった。
「帰らせてくれっといーけどな」
アンドレアルフスが不穏な一言を放り投げた。その言葉を拾ったシェリルの眉がつり上がる。
「……覚悟しとけよ。何すんか、分かんねぇ奴なんだろ?」
「何かあったらその時よ。
全力でめちゃくちゃにしてやる」
シェリルは本気のようである。アンドレアルフスは、苦笑して空を見つめた。
「何とかしてやっから、そんな顔すんなよ」
「私達が近くにいるんだもの、何とかなるわ」
シェリルは返事をせず、耳元の飾りを弄る。シェリルがここまで自らを飾り立てる事はない。
だが、これらはただの飾りではない。護符であり、術式を封じた魔石もある。城の中で符を堂々と持ち歩く訳にはいかない。
だから敢えて飾り立てているのだ。
「……何か、気になるのか」
「そりゃ気になるわ。
こんなに遠くまで来てしまったんだもの」
シェリルの額にかかる宝石を掴み、アンドロマリウスが軽く口付けた。青白い光が霧散し、代わりに艶やかな紅い光が宿る。
「!?」
シェリルは懐かしい力に目を見開いた。これはロネヴェの力である。
「……核の有効活用だ。
これは絶対にお前を守る」
「どう、して……」
シェリルの掠れた声を無視し、アンドロマリウスが続ける。
「お前は大丈夫だ。
お前の大切なものも、大丈夫だ」
「…………」
シェリルはただアンドロマリウスの言葉に小さく頷いた。