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贖う者  作者: 魚野れん
第十章 砂漠の殿下 ─カリスへの道─
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無意識

 険悪な雰囲気となったアンドロマリウスとリリアンヌだが、前方を行くアンドレアルフス達には届かないようだ。振り返るそぶりもなく、ただ前を走っているだけである。

「何か言ったら?」

「……」


 二人は互いを睨みながらヒポカを走らせる。リリアンヌの挑発じみた言葉に対して全く言葉を発しない彼に、彼女が眉間にしわを寄せた。


「主の方が魅力的だものね。

 シェリル様があなたになびかないのも仕方ないわ。

 シェリル様は素敵な方よ。主も気に入ってるはず」


 彼女はうっとりとした表情を見せながら、前方を見つめた。アンドロマリウスはそんなリリアンヌを見て視線を二人に移したが、その表情は険しい。

 アンドレアルフスの背中に阻まれ、シェリルが今どうしているのかを知る事はできない。そもそもそれを知る為だけに力を使うのもばかばかしい。


 だが、見えていなくとも安定した走りを見せている事から、特に騒いでいないのは分かる。その遥か前方に石造りの巨大な壁が見えてきた。カリスである。アンドロマリウスは、心なしかほっとする自分がいる事に気が付いた。


「俺は、ロネヴェに託されたから、面倒を見ているだけだ。

 それ以上の感情はない。

 シェリルがアンドレを好むのなら、勝手にすれば良い」

「ふぅん……?」


 模範解答のような返事をされ、彼女はちらりと彼を見た。だがその表情はいつも以上に不機嫌である事を主張している。リリアンヌはそれが自分自身を鏡で見ているかのような気分を覚えたが、首を振ってそれに蓋をした。


 シェリルが穏やかなひと時を過ごしている間、アンドレアルフスは妙な気分を感じていた。

 妙に落ち着かないのである。ごく稀に感じるものであるが、なぜ、今なのか。という気持ちも大きい。

 少しだけ背後を気にすれば、二人が並走しているのが分かった。会話が弾んでいるかは不明だが、珍しく話し込んでいるようである。

 自分の胸元で安心した様子を見せて眠るシェリルを視界に収める。カリスを目前にし気が急いているのかもしれない。


「ん……」

「!」


 シェリルが身じろぎした。更に背中を後ろで座るアンドレアルフスへと密着させてくる。彼は眉を顰め、そのぬくもりを注視した。

 不快ではない。だが、落ち着かない。死んだ悪魔に似ている、と言われてから調子が狂ったままなのかもしれない。小さく息を吐いた。シェリルが目覚めるまではまだ早いらしい。規則正しく肩が小さく上下している。


 片手でシェリルの頭をゆっくり撫でた。アンドロマリウスによって手入れされていた髪が少しごわつき始めていた。移動ばかりで砂埃を吸い、きしんでしまっているらしい。

 そんな小さな事が、アンドレアルフスの気分を持ち上げる。この悪魔に愛された召喚術士は、手間暇かけなければ自ら輝いてはくれないのだ。


 月のように太陽の光を浴びなければ輝けないのか。それとも闇夜のように辺りを暗くしなければ見る事のできない輝きなのか。どちらにしろ手間のかかる女である事に違いない。

 だが、それすらも含めて魅力的に見えてくるから不思議なものだ。

 アンドレアルフスは自らの思考を鼻で笑った。




 シェリルが目を覚ますと、カリスの目の前だった。

「……あれ?」

「お目覚めか」

 見覚えのある高い壁が一面に広がっている。この壁はいつ見ても変わらない。

 自分がどれ程に年数を生きようと、これからも変わらないとシェリルが確信している物の一つである。

「ごめん、すっかり寝ちゃった」

「気にすんな。

 俺も大部回復させてもらったしな」


 アンドレアルフスの言葉に安心したように笑みを浮かべる。そうしている内にカリスの門が見えてきた。

 豆粒ほどしかなかったものだが、近付くとかなり大きい。

「……久々だわ」

「そーかい」

 懐かしそうな、しかしどこか気まずそうな表情をするシェリルを笑う。

 アンドレアルフスは知っているのだ。過去にシェリル達が何をしたのか。


「別にやましくなんてないわ。

 行きましょ」


 アンドレアルフスの雰囲気に何か思う所があるのか、シェリルがわざわざ咳払いをしてから言い放つ。

 そんな様子が余計おかしく感じたのか、今度は大笑いをしてしまうアンドレアルフスであった。

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