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贖う者  作者: 魚野れん
第十章 砂漠の殿下 ─カリスへの道─
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安と険

「――アンドレ、大丈夫?」

 ヒポカをしばらく走らせていると、シェリルが声をかけた。ユラクスを出てだいぶ経つ。昼食を挟み、ひたすら駆けていたのだ。

「かなり楽になったぞ。

 でも、カリスに着くまでこうしてて良いか?」

「良いわよ。ちょっとだけ眠らせて」


 アンドレアルフスが頷けば、シェリルは彼を背もたれにしたまま目を閉じた。彼女が醸し出す安堵の空気がアンドレアルフスの気持ちを落ち着かなくさせる。


「……ロネヴェが愛した女、か」


 何百年も、そっと見守り続けていた。どのような性質を持ち、どのような人間なのか、分かった気でいた。

 だが、こうして直接関わると、知らぬ部分がどんどんと見えてくる。アンドレアルフスは、正直に言えば、シェリルに対して興味が尽きない。

 関われば関わるほど、自分がこの世界に入られる時間が減っていくという予感はしている。


 それでも離れようとは思えなかった。ロネヴェの遺志だから、というよりも自分が側で見ていたいと思ってしまったのだ。

 ロネヴェが彼女を構い倒し、自滅した気持ちも分からなくはないな。と、アンドレアルフスはロネヴェの愛に納得いかなかったはずの自分を嘲笑したのだった。




「……」

「……」

 先を行くアンドレアルフスの背中を見ながらヒポカを走らせるアンドロマリウスとリリアンヌはずっと無言だった。

 リリアンヌの雰囲気は、ここ数日の女傭兵というよりは、ユーメネで初めて出会った時のそれに近い。いくつかの表情を見せるリリアンヌであるが、これがある意味一番自然なものなのかもしれない。


「お前は」

「?」


 突然アンドロマリウスが口を開いた。このまま無言でカリスまでたどり着くのではないかと思っていたリリアンヌが首を傾げる。途端に彼女の雰囲気が普通のものに変わる。

「良いのか」

「え?」

 主語もなく問われ、リリアンヌは話が読めずに聞き返す。アンドロマリウスが溜息を吐いて首を振った。


「いや、何でもない」

「……気になるのだけど」

「気にするな」

「気にするわ」


 リリアンヌが横を見れば、アンドロマリウスの気まずそうな表情が目に入った。また意外な表情を見てしまったな、と思いながらリリアンヌが視線を戻す。

「……」

 沈黙が辛い。リリアンヌは何の話だったのかと頭をひねるが、いまいちぴんと来ない。

「やっぱり教えて。

 なにが良いのか、なの?」

 アンドロマリウスはリリアンヌの方を見ようとはせず、ただ沈黙を続けた。


「質問に答えようがないし、とても気になるの」


 何度も沈黙と問いかけを繰り返すと、流石にこのやりとりも疲れるのか、リリアンヌの耳に溜息が届く。リリアンヌが横を向けば、アンドロマリウスもリリアンヌの方を向いていた。

「お前は、主に執着しているだろう。

 シェリルとずっとあれと一緒に移動していて構わないのか」

「別に気にならないわ。

 執着してるって言われても、私だけじゃなくて一族みんなこうなんだけど」


「いや、お前のは特殊だ」


 リリアンヌは眉をひそめた。今まで一度もそんなことを言われた事などなかったのだ。

「これが普通よ」

「違う」

「あなたがどう思おうと勝手だけど、主の行動に対して何かを思う訳がないじゃない」

 リリアンヌの言葉を不満そうに聞く彼はいつもの悪魔だったが、リリアンヌが挑発的な瞳で睨めつけた。

「……むしろあなたこそ、自分のシェリルがアンドレにとられた気分になっているんじゃないの?」

 二人はより一層険悪な雰囲気を醸し出していった。

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