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贖う者  作者: 魚野れん
第十章 砂漠の殿下 ─カリスへの道─
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アンドレアルフスの動揺

 シェリルの眉はつり上がり、唇は尖っていた。面倒を被っているとはいえ、噂ごときでここまで怒る彼女を、アンドレアルフスは可愛らしく思いながらそっと声を掛けた。

「シェリル」

「何よ」

 はっとした様子でアンドレアルフスを見やる。シェリルの瞳には怒りの炎がちらついていた。


「わりぃんだが、俺と相乗りしてくれないか?」

「……?」


 いまいち良く分かっていないようで、彼女は小さく首を傾げた。アンドレアルフスを見つめたまま、何度か瞬きを繰り返す。

「あ。結構きついの?」

 シェリルの問いに、アンドレアルフスが頷く。すると彼の乗っているヒポカへとシェリルがひょい、と乗り換える。アンドレアルフスの後ろに乗った彼女は、その背中に体重を預けて腕を回した。


「無理しちゃ駄目よ」


 抱きついたまま、彼女があやすようにぽんぽんと軽く腹部を刺激する。シェリルからの小さな振動を受け、アンドレアルフスは苦笑した。

「……ほんと、あんた良い女だよなぁ」

「何言ってるの。

 私自身は魔力の固まりでできている訳じゃないから、ぱーんと放出するなんて器用な事できないわ。

 力を押さえ込まないようにするだけしかできない。

 勝手に吸い取ってね」


 がんがんと響いてくる痛みの間をぬってシェリルの優しげな声が響いた。言われるがままに近くの魔力を集め始めれば、そこからじわりと魔力が広がっていくような気がした。

 シェリルに抱きしめられたまましばらく移動を続けていると、だいぶ楽になってきた。魔力の枯渇からくるこの世界からの圧力と、己の身を守ろうとする喉の渇きが和らいでいくのが分かったのだ。


「シェリル、前にくるか?

 後ろだと疲れるだろ」

「はーい」


 余裕の出てきたアンドレアルフスがシェリルに声を掛ける。シェリルの間延びした返事を聞いた彼がヒポカを止める。止まったのを見計らい、彼女はアンドレアルフスの前へと移動した。

 しっかり跨ったのを確認してからヒポカを歩かせる。ゆっくりと歩き出したヒポカの上は、リズムを保って揺れていた。


「俺に体重預けてた方が楽だぞ」

「そうするわ」


 小さな彼女の背中がアンドレアルフスに触れた。ほんのりと彼女の香りが鼻腔をくすぐる。

 何となく抱きしめてしまいそうになる気持ちを抑え、シェリルの頭に顎を乗せる。そして辺りを漂う彼女の香りを吸うと、その魔力を隅々まで味わってみたいという欲が生まれた。だがそれは自分らしくないと、自らを鼻で笑う。

 小さな揺れに気を向ければ、彼女が小さく笑っていた。


「んだよ?」

「ふふ、だって……甘えてくる時のロネヴェそっくり」


 前に似た言葉を聞いた事のあるアンドレアルフスであったが、今回は動揺して目を見開いた。どうして動揺したのかもいまいち分からず、混乱に拍車をかける。

 幸い彼女の頭上である為、顔を見られる事はない。彼は数回瞬きを繰り返し、少しだけ冷静さを取り戻した。


 少し冷静になるとバクバクと心臓が動いているのに気が付いた。早鐘のような心音がばれやしないかと慌てて魔力で封じ込める。

 急に心臓を抑えたせいで視界がくらくらとする。しかし、それどころではなかった。アンドレアルフスは悟られぬように口を開く。


「あんたは、ロネヴェを忘れようとしないんだな」

「当たり前でしょ」

「――そうか」


 ゆっくりと唾を嚥下し、即答したシェリルの頭上で息を吐いた。シェリルはアンドレアルフスの異常事態に気が付く様子もなく、言葉を続けていく。

「私がロネヴェを忘れたら、私の彼に対する感情も嘘になるわ。

 私は彼を愛してるし、それを後悔した事もない。

 ロネヴェの愛した召喚術士シェリルとして行き続けるの」

 シェリルの真っ直ぐな答えに、アンドレアルフスは「そうか」とだけ答えた。

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