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贖う者  作者: 魚野れん
第十章 砂漠の殿下 ─カリスへの道─
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付き纏う噂

「周りに他の方がいないから話すけど。

 金色の孔雀さんと黒髪の蛇さんが大きな魔力の塊みたいだったから、昨晩は二人だけ呼ばせていただいたの。

 魔力を譲ってもらえて、とても助かったわ」


 サシャが彼らをあだ名で呼んだ事に顔を上げた。シェリルから見て、アンドロマリウスとアンドレアルフスは人間に見える。ただ、彼らの雰囲気が異常なだけだ。好んで模す動物を捉えるとは、普通の人間にできる事であると思えなかったのだ。


「あなたを呼んでも良かったんだけど――」


 サシャがそう言葉を紡いだ途端、悪魔二人が彼女を睨んだ。睨まれた方は何とも感じないといった様子で、くすくすと笑っている。

「あらやだ、嫉妬されちゃったわ。

 もしかして両方と契約してるの?

 でも、そうじゃなくても同性に手荒な事はしたくないわね」

「黒い方と契約している。

 金色のはおまけだ」

「おまけだとっ!?」


 サシャのからかいに、シェリルが淡々と答える。“おまけ”という言葉にショックを隠しきれない、といった様子で立ち上がるアンドレアルフスだが、すぐに力なく椅子に座り直した。

「私には黒いのに加えて、お前を制御する程の器がない事くらい分かってるからな」

 シェリルは何となく気まずくなり、そう補足する。それを聞いたアンドレアルフスはへにゃりと笑みを返した。


 アンドレアルフスの笑みがロネヴェのそれと重なり、シェリルの動きが止まる。だが、それは一瞬の事で、すぐにサシャへ話を続けるよう促した。

「昨晩二人には言ったんだけど、最近魔力をくれるカリスの貴族達が来ないの」

「……この街は深刻な魔力不足に?」

「私、近々何かがあると思う」

 彼女の言葉にシェリルの表情が暗くなる。カプリスに兵を送ったと手紙をよこした殿下の名が頭に浮かんだ。


「貴族は特別な事がない限り、ワインの為に来てくれてるのに。

 ……変な噂もあるし、それのせいかしら」

 シェリルだけではなく、他の三人も返事をせず黙々と食事を続けた。

「何だか、どこかの偉い人が来るって話よ」

「偉い人?」

 サシャが頷き言葉を続ける。その内容に、シェリルはぽろりとブドウを落としたのだった。




「裏だけじゃなくて表にも流れてるなんて、おかしいわ」

 シェリルが憤慨している。もうすぐでカリスである。だが、ユラクスを出てからシェリルの機嫌は悪いままだった。

 アンドロマリウスやリリアンヌは、シェリルの言いたいようにさせていた。疲れた様子を見せるアンドレアルフスは、自分との戦いで精一杯のようである。


「だって、さっきの聞いたでしょ!?

 高名な魔道士だとか、高貴な姫だとか、はたまた遠方の蛮族の女王だとか!

 私は一体何なのよ……っ!」

 シェリルは誰かの相槌を必要とせず、勝手に話し続けていた。よほど鬱憤が溜まっているのだろう。


 長い溜息を吐いたアンドレアルフスが、アンドロマリウスの方へと寄る。ぴたりと並んだ所で、アンドレアルフスが控えめに問いかける。

「……シェリル、借りても良いか?

 カリスまで、一緒に移動しながら魔力を少し貰いたい」

「本人の許可が取れればな。

 カリスに入るのにお前がへたっていれば面倒が増える」

 アンドロマリウスは、アンドレアルフスに限界が近付いている事に気付いていた。

 アンドレアルフスが一度魔界へ戻れば、彼の不調は解決するだろう。だが、しばらくこちらに現れる事はできなくなる。それでは意味が分からなくなってしまう。


 アンドレアルフスが欠けてしまえば、シェリルを守る手が減ってしまう。何が起こるか分からないからこそ、今彼に帰られてしまっては困る。

 それだけは避けたかった。

「……助かる」

 それだけアンドレアルフスは呟くと、まだブツブツと怒りをまき散らしているシェリルの方へと寄っていった。

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