サシャの言い訳 *
さんざん誘惑してくるサシャにしびれを切らしたアンドロマリウスが、彼女の腕を引っ張った。サシャは逆らうことなく、引っ張られるままにアンドロマリウスの胸元にぶつかっていく。
彼女が彼を見上げ、そのまま口付ける。アンドロマリウスは拒絶しなかった。
長い間二人は口付けを交わし、アンドロマリウスがサシャへと魔力を譲り渡した。唇が離れると、サシャはにこりと笑みを作って口を開く。
「ありがとう。助かるわ。
これでもう一人からも貰えたらもっと嬉しい」
サシャの言葉に、アンドレアルフスが嫌そうな顔をした。はっきり言って、魔力は消費したくないのである。
回復するにしたって、今はシェリルから漏れ出る力をこっそり貰っているだけで、その他に得る手段がない。
そんな状態である彼は、今ここでサシャに力を吸われたら、と思うだけで気が重いのだ。
「俺は力をやりたくない」
「少しでもだめかしら?」
アンドロマリウスから離れてアンドレアルフスに纏わりつく。豊満な胸を押し付けられても、アンドレアルフスの気は向かない。むしろアンドロマリウスのように眉間にしわが寄ってしまっていた。
「ただの無駄遣いじゃねぇか。嫌だね」
「無駄じゃないわ。
おいしいワインになるのよ!」
「……俺は訳ありだから、力を使いたくねーの」
不満そうに食いついてくるサシャの顔からそっぽを向く。少女は不機嫌そうな悪魔をものともせず、彼の体をあやすように撫でなている。
「私の身体、好きなだけ貪っても良いのよ?」
「興味ねーよ。
大体、俺様が魔力を分け与えるだけの価値があるとは思えねぇ」
アンドレアルフスがサシャ言葉を鼻で笑う。
「まぁっ!
私の身体で喜んでくれるカリスの貴族はとても多いのよ!?」
サシャが信じられない、といった風に大きな声を上げる。彼女は彼女なりに、この仕事を本当に誇りを持っているのか、はたまた単に自分を特別な人間だと思っているのか。
「あなたに分けてもらえれば、この街を支えるのに安心できるだけの魔力が集まるわ。
ちょっと魔力を持ってるだけの人間からとれる量なんて、たかが知れてるの。
定期的に来てほしいとか欲張りは言わない。
今回だけよ」
「……」
しがみつきそうな勢いでサシャが捲し立てる。
「ここ最近、カリスの貴族間で何か起きているのか、魔力を持っている貴族が来なくなって困ってて……
だから、私の興味本位とかじゃないの」
アンドレアルフスの視線がサシャへと移る。彼女は、シェリルが召喚術士として町の為に頭を悩ませている時と同じような表情をしていた。
「――つまり、この街の緊急事態なの。
そうじゃなきゃ……私だって、こんな必死に頼まないわよ……」
サシャが悔しそうに俯き、形の良い唇をきゅっと噛んだ。
「――欲しいだけ持ってけよ」
「え?」
少しの後、アンドレアルフスが呟いた。それを耳にしたサシャがぱっと顔を上げる。
「だから、そういう真剣なものならやるって言ってんだ」
「良いの?」
さっきとは真逆の反応に、アンドレアルフスが面倒そうに前髪をくしゃりとした。