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贖う者  作者: 魚野れん
第十章 砂漠の殿下 ─カリスへの道─
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魔を発する少女 *

 悪魔二人の拒絶に対して不快感を露わす事なく、少女はにこりと微笑んだ。

「普段私一人で生活しているの。

 少しくらい相手してくれても良いでしょう?」

「……」

 毒気のない笑みに、アンドロマリウスとアンドレアルフスは顔を見合わせた。アンドレアルフスはここにいるのも辛いといった様子を見せている。


「――ああ、ここの空気が辛いのね」


 彼女はそう言って、一度奥へと下がっていった。彼女が視界から消えたのを見て、アンドロマリウスがアンドレアルフスの近くを手のひらで払う。その動きに合わせてアンドレアルフス周辺の魔力が霧散した。

「……はぁ」

 明らかな安堵の溜息を吐いた彼は、ふるふると頭を振って顔をしかめた。


「無理するなよ」

「分かってらぁ」


 アンドレアルフスの周りにアンドロマリウスが自らの魔力を纏わせる。見知った魔力で守られたアンドレアルフスは、心なしかほっとした様子を見せた。

「お待たせしました。

 過剰分を送り始めたから、もうすぐここも普通の空気になるはずよ」

 少女が顔を出した。彼女の動きに合わせて近くの布が揺らめいていく。アンドロマリウスは、彼女をじっと観察する。少女がこちらに近づくほど、やはり瘴気じみた魔力を感じる。少女自身の魔力の方はどうにもならないようである。


 シェリルは普通の人間とは言えぬ容量を持つ女だが、この少女もまた普通の人間とは言えぬ魔力量の持ち主という事だ。アンドロマリウスは心中穏やかではなかった。

 恐らく、この少女は先天的なものではなく、後天的にこうなったのだ。普通の人間が、これだけの量を無理矢理持たされて何ともないという事は、ありえない。そう、ありえないのである。


 普通であれば、容量を越える辺りで発狂するか、万一越えられても器が持たずに壊れるはずなのだから。


「あまり警戒されてしまうと……私、悲しくなっちゃう」

 少女はそう言いながら、ふわふわと軽い足取りで悪魔の方へと歩き出す。室内の魔力の濃度が下がったのか天井から垂れ下がっている布は動かなくなっていたが、彼女の起こす風でゆらゆらとはためいた。


「私、サシャって言うの。あなた達のお名前は?」


 音も立てずに少女が飛んだ。ふわりと浮かぶかのような軽い跳躍である。その先にはアンドロマリウスがいた。一瞬、避けるか弾くか迷った彼であるが、まだ自分達に害を及ぼそうとしていない為、受け止める事にした。

 サシャは軽かった。だが、思いの外力強かった。


「っ!」


 受け止めた瞬間、アンドロマリウスは強い力で押し倒された。重さで押されたというよりは、ぐっと腕力で押さえつけられるかのような強さだった。

 突然倒れ込んだアンドロマリウスに、アンドレアルフスが思わず構える。アンドロマリウスの上に馬乗りになった少女は彼に顔を寄せ、うっとりと呟いた。


「安心して、食べたりしないわ」

「おいっ」


 サシャの怪しい動きにアンドレアルフスがいい加減にしろと声を掛ける。少女は彼をちらりと見たが、今は興味がないらしい。すぐにアンドロマリウスへと向き直った。

「お茶しましょ?」

 何事もなかったかのように、サシャは立ち上がって歩き出す。


「こっちにテーブルがあるの、いらっしゃい」


 彼女の自由で読めない動きに悪魔二人は顔を見合わせ、溜息を吐いた。事を荒立てたくない彼らは、サシャに大人しく従うしかないのだ。

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