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贖う者  作者: 魚野れん
第十章 砂漠の殿下 ─カリスへの道─
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宿が安い理由

 食事を終えた四人は一旦部屋に戻ることにした。シェリルとリリアンヌはメモ紙について話していた。

「四人で行った方が良いかな?」

「いや、行くならアンドレとマリウスだけが良いと思う。

 二人を指名しているから、四人で行ったら何もない可能性が高いわ」


 エレナに招待されたのはアンドロマリウスとアンドレアルフスだ。それも握手の時に渡すなど、手の凝ったやり方をする時点で特殊な招待である事は間違いない。

 敢えて、そのような方法を取る理由は限られる。今回の場合は、二人にだけ用があるという事を主張する為なのではないかとシェリルは考えていた。


「私は気になるんだけど……」

「好奇心は猫をも殺すって言うわよ」


 リリアンヌの言葉にシェリルが釘を刺す。彼女はシェリルに言われて不機嫌になるでもなく「はーい」と間の抜けた返事をした。




「さぁて、これはどうする?」

「……行かない、という手もあるが」

 アンドレアルフスの問いに、アンドロマリウスが振り向いた。アンドレアルフスはゆったりとくつろいだ様子で、ベッドに横になっている。


「それではシェリルとリリアンヌの二人が納得しないだろうな」

「だよなぁ?」


 最初から答えは決まっているも同然といった風に、にたにたと笑う。アンドロマリウスはいつも通りのアンドレアルフスを感じて視線を移動した。

 その視線の先に一輪の花が入る。隣の部屋と同じ花である。ふと気になり、彼はそれを手に取った。


「……アンドレ、誘いには積極的になった方が良さそうだ」

「んあ?」


 アンドロマリウスの固い声色に、アンドレアルフスが身を起こした。さっと彼の隣へ移動してその手元を見る。

「こりゃ、俺達うんぬんの話じゃなくなってくるぞ」

 アンドロマリウスと同じ痕跡を見つけたアンドレアルフスが静かに唸った。彼らが見ていたのは花ではなく、花瓶である。


 派手過ぎはしないが、そこそこ良い質のものであるそれには、悪魔だからこそ分かる魔力が溜まっていたのだ。それも、見知らぬ人間のものではない、見知った悪魔のものである。

 他でもない、アンドロマリウスとアンドレアルフス両方の魔力であった。


「客から貰うのは、金だけじゃないって訳だ」

「安いのには理由がある、か……」

 二人はそれぞれ口を歪める。どうやら、この宿は宿泊者の魔力を吸い取る仕組みになっているらしい。二人が様々なものを手に取り、確認し始めた。


「マリウス、こりゃ夢見悪くなりそうだぜ」

「……ひどいな」

 二人がベッドの下をのぞき込むと、平たい水の入った器が目に入る。引きずり出してみれば、その水はアンドレアルフスの魔力を吸っていた。


「俺ら、知らない内に宿泊費とか案内とかのもろもろを体で払ってたみたいだな」

「悪魔は元々そういう種の存在だが、人間のやる事もえげつないな」

 アンドロマリウスが溜息を吐く。アンドレアルフスの方は肩をすくめ、諦めたように頭を振った。


「このカラクリも詳しく聞きたいし、やっぱり行くしかないな」

 アンドレアルフスは伸びをし、扉に向かう。アンドロマリウスが外の空を見れば、ちょうど刻限のようである。アンドレアルフスとは異なり、アンドロマリウスはヒマトを纏い直し、頭部を隠すように深く覆った。


 アンドロマリウスは静かに扉を閉め、シェリル達が居るはずの隣室を見た。だが、二人は彼女達に声をかける事はなく、そのまま宿を出ていった。

 二人の外出をはっきりと知っているのは、水から抜かれても鮮度を保ったままテーブルに残された、一輪の花だけであった。

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