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贖う者  作者: 魚野れん
第十章 砂漠の殿下 ─カリスへの道─
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ワインの素

 シェリルの口内が落ち着きを取り戻した所で、次の棟へと移動する。移動した先はワイン用にブドウを加工する処理場になっていた。

「見学者用の区切りから先へは行かないでくださいね。

 品質に問題が出てしまうと困りますので……」

 エレナはそう一言告げて、扉を開いた。


 見学者用の場所は壁沿いに一列あり、スペースは十分にとってあった。これならば、見学者用の場所を出なくてもしっかり見る事ができるだろう。

「すげぇな」

 アンドレアルフスが楽しそうに身を乗り出すようにして作業を見つめる。ブドウを一粒ずつに分け、手桶にまとめていた。


「俺、ブドウそのまま樽にぶっこんで潰すんだと思ってた」


 彼の言葉に、昔は丸ごと潰していたのだとエレナが笑う。

「でも、花梗(かこう)が絡まって面倒だったので、最初から取り除くようになったのです。

 ただ、渋みを付けたいワインを作る時には取り除いた花梗をつぶしたブドウへ加える事もあります」

 花梗とは、ブドウの果実を付ける枝のような部分の事である。花が咲く時期に、これを切って実のつき具合を良くするのだ。


 そうして育てられたブドウは房から粒になり、最終的に大きな樽へと移される。

 大きな樽の上部には、踏み潰す作業をしている人間が何人かいた。樽の底には潰れたブドウが出てくるような仕組みになっているらしい。


 潰れてどろどろになったブドウはそのまますぐ下にある樋を通ってまた違う大きな樽へと貯められる。

 潰れたとはいえ、簡単に樋を移動できるわけでもなく、ここにもまた何人かが樋の大きさに合わせた板でブドウを流す作業を行っていた。


「人海戦術じゃねぇか」

「そうですね。仕込みの準備から発酵が始まるまでが一番手がかかります。

 とはいえ、澱引きなどの作業があるので全く手間がかからないわけではありませんが……」


 話を進めていくうちに、潰れたブドウの入った樽の近くにやってきた。見学者に気が付いた何人かの内の一人が、器に樽の中身をすくって持ってきた。

「上澄みなので、すぐ味見できますよ。

 これは甘いから大丈夫」

「さっきのすっぱかった奴は……」

 シェリルが胡散臭そうに言うと、エレナが笑う。


「あれとはまた種類が違うブドウなんです」

「――……ん、甘い」


 恐る恐る口を付けたシェリルが呟いた。それを聞いた三人も濃い液体を流し込む。

「普通にうまいじゃん。

 これならそのまま飲めるぜ。甘いけど」

「……良質なワインになりそうだな」

 感心している悪魔二人の横で、リリアンヌの明るい声が響く。


「ね、これおかわりしちゃダメなの?」


 ブドウジュースを持ってきた女性がくすくすと笑いながら背を向ける。どうやらおかわりを持ってきてくれるようだ。

「ラッキー」

 リリアンヌが拳を握る横で、シェリルが溜息を吐く。女性は全員分のおかわりを用意してくれていた。

「では、それを飲みながら醸造の部屋へどうぞ」




 次に案内された部屋は、地下であった。

「ここで発酵させたり、澱引きしたりします」

 エレナが示した先には、不思議な装置が置いてあった。ガラスの筒が二つの樽を繋いでいる。

 シェリルにはその装置に見覚えがあった。


「サイフォン……?」

「よくお分かりで」

 シェリルの呟きにエレナが反応する。彼女はここは特殊な場所だからこれ以上近付く事を許可できないのだと言いながら、説明を始めたのだった。

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