ブドウの街、ユラクス
ブドウの街、ユラクスに着いたのは二日後の昼だった。追っ手もなく平和そのものの旅路に、傭兵姿の四人の精神はくつろいでいた。
四人はそれぞれ物珍しげに街を見回している。街の周りはブドウ畑が広がり、美しい緑の海を作っていた。今は花の季節らしく、あちこちに可愛らしい花が咲いている。
街の中には恐らくブドウを加工する為の施設だろう、大きな建物がいくつも並んでいる。普通の大きさの建物を探す方が難しそうだ。
街が丸ごと果樹園と加工施設で構成されているかのようである。
「すげぇな……」
ブドウ畑に囲まれた普通の街を想像していた一行は、良い意味で期待を裏切られ、感嘆の声を漏らす。
「街というより、大きな施設みたい」
「……ブドウは一年中採れる訳じゃないが、その間何をしているのか気になるな」
「そんなとこ気にすんのはあんただけじゃないの……?」
アンドロマリウスが、学者のような人間しか気にしないような事を呟いた。リリアンヌがすかさずつっこみを入れる。どこか呆れ気味の、力の抜けたつっこみであった。
「そんなに気になるなら、早く宿を見つけて街を観光すれば良い」
シェリルが淡々とアンドロマリウスに告げる。彼は頷くと先頭を歩き出す。本当に気になっていたのか、とシェリルは内心で笑い、その後に続いた。
宿は大きな建物一棟に集約されていた。すべてが加工施設という訳ではなく、建物一棟一棟に施設が区分けされて集まっているようである。
この街の人間の居住区も、そのようにしてどこかの建物にまとまっているのかもしれない。
なかなかに特徴的な街である。もしかしたら、更に驚くような施設もあるかもしれない、とアンドロマリウスが珍しく浮ついた様子を見せていた。
「こりゃすごいな」
「普通の宿なんだよね……?」
部屋に案内された四人は、部屋の中に入るなり辺りを見回した。広めの部屋に、しっかりとしたベッドが二つ。アンドロマリウスとアンドレアルフスが泊まる予定の隣の部屋も同じ作りだろう。
調度品は華美とまではいかないが、それなりに良いものが並んでいた。
「金額よりも質の良い部屋だな」
「相当儲かってるんだろ」
身も蓋もない言い方であるが、アンドレアルフスの言葉を否定する者はいなかった。花瓶には、可愛らしい花が活けられている。
管理も行き届いている、しっかりとした宿であった。
宿の人間にブドウについて話を聞くと、まずは一号棟へ行くと良いと案内された。シェリル達は一号棟の案内所へと向かうと、案内人が現れた。
「この街は初めてですか?」
「カリスに行く途中に立ち寄ってみたんだ」
穏やかで素朴な雰囲気の婦人である。アンドレアルフスの言葉に、にっこりと穏やかな笑みを浮かべると、建物の案内を始めた。
「私は案内人のエレナと申します。
よろしくお願いしますね。
皆さんはもう、外のブドウ畑はご覧になったと思います」
「結構な広さの畑だった」
「……ブドウ畑は、外だけじゃないんですよ」
エレナは大きな扉を押して中を見せる。扉の向こうには、大きな実のなったブドウ畑が広がっていた。